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「お嬢さん、お一人ですか?」
急に声を掛けられたので振り返ると、警邏隊の制服を着た獣人が立っていた。鍛えられた体に整った顔立ち。顔は人間だけれど、少し垂れた大きな茶色い耳とふさふさのしっぽから、犬の獣人ではないかとリリスは思う。人のよさそうな笑顔を浮かべているからか、格好いいというよりも親しみやすい印象だ。
「……はい」
「びっくりさせてしまってごめんなさい。一人で出歩いている女性が襲われる事件が続いているので、巡回しています。今日のように騒がしい日は犯人も紛れやすくて特に危ないです。なるべく早くご帰宅くださいね」
「……ありがとうございます」
リリスがお礼を言うと、警邏隊の獣人は笑顔で去っていった。本当に能力が優れているのだろうなとリリスはぼんやり思う。普通の人間でも、警邏隊に入ることはなかなか叶わない。獣人や亜人は能力が高くないと駄目なのだ。選ばれし者であろう彼を見て、リリスの気持ちはますます沈んだ。
こんなことではいけないとリリスは顔を上げる。空に浮かぶ美しい満月。欠けるところがない完璧な造形。それなのに、どうしてリリスは月の冴え冴えとした光をどこか切なく感じてしまうのだろうか。
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