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青年がリリスを連れてきたのは、雰囲気はよいが、食事よりも酒がメインの店だった。女性にはこれがおすすめです、と青年が勧める酒を見て、リリスは「あれ?」と思う。甘く口当たりがよいのでごまかされやすいが、かなり度数が高いものだったから。
見かけによらず、リリスは酒に強い。実家にいた頃、かかりつけの医者に「リリスさんはおそらく枠ですね! そういう人は薬の効きが悪いんですよ!」と笑顔で言われた経験もあるくらいだ。実際成人してから何度か酒を飲んだが、全く酔ったことはない。
リリスは自棄になっていたので、勧められた酒を頼んでもらった。間もなく綺麗なグラスに入った酒が届いた。中身は黄色から朱色に美しい諧調を描いていて、グラスの縁に柑橘の実を切ったものが添えられている。いかにも女性が喜びそうな美しい酒をリリスは口に含む。果実の爽やかさと甘さでごまかされているが、想像通りかなり度数が高い。
これはつまり、自分を潰してどこかへ連れ込もうという魂胆なのだろうか。そうならば、青年は綺麗な顔をして、考えていることがなかなかえぐい。
意外と利害は一致しているのかもしれないし、もうそれでもいいかもしれない。リリスはサキュバスなのだから、サキュバスらしく男を捕食していればいいのだろう。引っ掛けられているのか引っ掛けているのかよくわからないけれど、相手がヴォルフィじゃないのなら、誰でも同じだ。等しくどうでもいい。
リリスがそんなことを考えていると、後ろから肩をぽんと叩かれた。
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