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「リリスさん、僕との約束が先でしょう?」
どうしてもリリスの頭から離れなかった、愛おしい男の声だ。いつも通り穏やかで優しい声のはずなのに、なんだかものすごい圧を感じる。目の前の金髪の男の顔が怯えるように歪むのを見て、ヴォルフィがどんな表情を浮かべているのか大変気になりはしたものの、だからこそ怖くてリリスは振り返ることができなかった。ヴォルフィは金髪の男に「そういうことですので」と言うと、リリスの手をつかんで酒場を出た。
二人は無言で歩き続けている。ヴォルフィから行為中以外にもふれられたい。手をつないで歩きたい。そう思っていたリリスの願いは叶った。全然嬉しくない形で。無言の圧に耐え切れなくなったリリスはヴォルフィに話し掛ける。
「……どうして、私の居場所がわかったんですか」
「リリスさんの匂いがしたから」
「匂い?」
「甘くて、僕を惑わせる」
リリスはヴォルフィの言葉がよくわからなかった。リリスは香水を使わない。顔や髪を洗うのに使っている石鹸も、ごく淡い香料しか入っておらず、乾けばすぐに消える程度のものだ。街中で嗅ぎ分けられるとは到底思えない。
ほどなくヴォルフィの店に到着し、リリスは中へ連れ込まれた。
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