サキュバスリリスの独り立ち

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 リリスが工場で働き始めてから、非常に困ったのは手の荒れである。指先に力を込めて細かい作業を行う上、水を使うことも多い。寒さと乾燥が厳しい季節であることも相まって、リリスのやわらかな指先と関節はひび割れ、じゅくじゅくした汁と滲む血に悩まされることになった。痛痒さがつらく、赤く炎症を起こしている見た目もよくないが、なによりせっかく作ったレースを汚してしまわないかが心配だった。汁や血がついてしまったら商品価値がなくなってしまう。苦労が水の泡だし死活問題だ。  先達がこの問題に遭遇していないはずがない。リリスは奥様方に訊ねた。 「ああ、確かに最初は手の荒れに悩まされるよね」 「ヴォルフィさんのお店の塗り薬がよく効くよ」 「ヴォルフィさんのお店、ですか?」  初めて聞く名前だったので、リリスはみなさんに問うた。 「そう。端整な顔立ちの薬師が切り盛りしている薬局」 「塗り薬が安くてよく効くと評判で、少し高いけど飲み薬も効くわよ」 「ヴォルフィさん、優男で親切だけど、ちょっと押しが弱くない? あれで経営大丈夫なのかしら」 「あんまり喋らないものね」
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