薬師ヴォルフィの理想と現実・その1

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薬師ヴォルフィの理想と現実・その1

 ヴォルフィは王都の端に店を構えた。人狼であることがバレて、付き合っていた女性から去られてしまったため、所帯を持つために貯めていた金をそのまま開店資金に充てたのである。結婚後ある程度生活が安定してから夢を叶えようと思っていたので、夢の実現の方が早まっただけではないか、とヴォルフィは自分に言い聞かせた。  客が誰も来ない。あまりにも暇で、会員登録用の記入用紙を作ることにした。囲い込み戦略である。  結局一日目は来客が一人もないまま閉店した。  二日目、やはり人が来ないので、ヴォルフィは別の特典を考えていた。少し厚めの紙を小さく切り、線を引く。店の看板の意匠に使っているステレラの花の印も彫った。十個押印を集めたら少し割り引くというのはどうだろう、と考えたのだ。 「宣伝、するべきだったかな……」  三日目、ヴォルフィは閑古鳥の鳴く声が聞こえる気がした。幻聴か。薬局の経営は計画性に乏しかった。本来ヴォルフィは慎重な性質で、もっと綿密に計画を立てようと思っていたのだが、失恋して自棄と勢いで行動してしまったためだ。一応、近辺に薬局がないか程度は下調べをした。利便が悪いとはいえ王都なので、ヴォルフィの所持金では精一杯の立地だった。だが、やはり不便なところは人も来ないのだ。 「薬って普通の人は調子が悪くならないとなかなか買わないものだしなあ……。いや、むしろ本当に具合が悪かったら医者のところへ行くだろうし……」  もっと慎重に事を運ぶべきだった。振られた傷を忘れようとして無茶なことをするからこういうことになる。ヴォルフィが自嘲気味に笑っていると、ドアベルが鳴った。
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