薬師ヴォルフィの理想と現実・その1

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「おそらくこれで大丈夫だと思いますが、痛みが続くようでしたら、医者に診てもらってください」 「ありがとな。支払いするよ、いくら?」  ヴォルフィは傷薬一個分の料金を警邏隊の獣人に請求し、小さな缶に入れた軟膏を渡した。経過が順調ならこれだけあれば充分だろう、と考えて。警邏隊の獣人は金額を聞いて少し不思議そうな表情を浮かべたが、素直に支払った。 「ここらへん、今はまだ不便だから、薬局ができて助かるなー」 「……それはよかったです」  当のヴォルフィは全然客が入らなくて困っているのだが。思わず苦笑いしてしまったヴォルフィの目をじっと見て、警邏隊の獣人は訊ねる。 「お兄さん、人狼だろ?」 「……いえ」  面倒なことになると思い、ヴォルフィは咄嗟にごまかしたが、嘘を吐き慣れていないので目が泳いでしまった。相手も獣人なのだから、正直に言った方がよかっただろうか、とヴォルフィが思った時に、警邏隊の獣人は淡々と言った。 「隠してもバレてるから無駄。俺、犬獣人だから、鼻が利くし」 「はあ……」 「それに人狼だってことを是が非でも隠し通したいのなら、どうして『ヴォルフィ薬局』なんて名前にしたんだよ?」 「本名の愛称で……。あと、本名よりも人狼だとバレにくいかと思ったので」 「本名は?」 「ヴォルフガンク」  ヴォルフィの言葉を聞いて、警邏隊の犬獣人はカラカラと笑う。
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