薬師ヴォルフィの理想と現実・その1

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「本名の方がよっぽどバレないだろ。よくある名前だし。Wolfie(ヴォルフィ)なんて、まんま狼じゃん!」 「あ……。どうしよう、もうこの屋号で役所に登録しちゃったのに……」  ヴォルフィは「呼ばれ慣れているし書くのが楽」という安易な理由で店の名を選んだことを後悔した。しまったという表情を浮かべるヴォルフィを見て、警邏隊の犬獣人は笑いながら言う。 「賢そうな顔して、案外うっかり者だなあ! ヴォルフィ!」  この犬獣人、なんだかえらく馴れ馴れしいな、とヴォルフィは思う。さりげなく愛称で呼ばれた。 「どうしてわざわざここに店を構えたんだ? なんか伝手でもあんの?」 「いえ……。王都に出ればなんとかなるかと思ったのと、所持金と相談しつつ近くに競合店がない場所で絞り込んだら、消去法でここに……」 「いきあたりばったりだなー!」  警邏隊の犬獣人はますます大声を上げて笑った。なに、この、デリカシーのない犬、とヴォルフィは内心苦々しく思う。 「でもヴォルフィ、お前、運いいよ。今は不便だけど、この辺りは再開発計画が決定してるから、もう少ししたら道が整備されるし、いろんな建物もできて、栄える」 「もう少しって、どれくらいですか?」 「うーん……五年。遅くとも七年もすれば」  それまでこの店が生き延びられるかが問題だ。
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