薬師ヴォルフィの理想と現実・その2

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薬師ヴォルフィの理想と現実・その2

「また怪我ですか?」 「あはは、うっかり藪に突っ込んじまってさあ!」 「僕のことをうっかり者だなんて言えないですよ」  警邏隊の犬獣人の腕は棘だらけだった。ざっと見てわかる箇所は鑷子(ピンセット)で抜いたが、小さいものが残っているかもしれない。 「まだ棘が刺さっている気がするところはありますか? フェルディナントさん」 「んー、なんか左手の人差し指がまだチクチクする」  ヴォルフィは注意深く犬獣人の人差し指を観察する。確かに茶色いものがあった。ヴォルフィは針をランプの火であぶり、犬獣人の指にそっと近づける。 「やだ、怖い」 「棘が小さすぎて、鑷子では抜けそうにないんです」 「熱っ!」 「消毒代わりだから、諦めてください」 「痛っ!」 「思っていたよりも深く刺さっていて…………取れた」  ヴォルフィは針ですくうように棘を取り出した。棘は細いものの思いの外長かったので、刺さったままでは左手を使うのがつらかったはずだ。ヴォルフィは犬獣人の指に消毒液を流し掛ける。 「沁みる!」 「藪に突っ込んだ時はもっと痛かったはずです。我慢してください」
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