薬師ヴォルフィの理想と現実・その2

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 手当てが終わり、会計を済ませると、犬獣人はヴォルフィに切り出す。 「ヴォルフィ、店は忙しい?」 「…………みなさんが健康なのは、本当にいいことですよ」 「確かにな」  犬獣人は胸元から折り畳んだ紙を取り出してヴォルフィに渡した。 「もし余裕があるなら、大量に発注してもいい?」  ヴォルフィは丁寧に紙を開き、目を通す。薬の注文書だ。 「いっつも発注がギリギリだから、薬師のみなさんから嫌がられちゃってさあ」  確かに種類が多いので、手間を考えると嫌がられるのもわかる。だが、閑古鳥が鳴いているこの店なら、なんとかこなせなくもない。 「こちらこそ、ぜひお願いします」 「できれば今後も継続して、注文受けてほしいんだけど」 「え!」  ヴォルフィはもう一度注文書を見直した。工程が単純な作り置きのきく薬も、作るのに手間がかかる割に日持ちはしない薬も、全て納期は「最短」と書かれている。 「今回はかかりきりで作るので大丈夫です。ただ、これからも続けてご注文いただくというお話なら、薬によって納品できるまでの日数が違うので、ご期待に沿えないかもしれません。納品までに何日必要かを表にまとめますから、今後はその表に基づいてご注文ください」 「へえ! それ、俺も助かる! 早く決めろってしつこく言ってるのに、なんだかんだでいっつも後回しにされてさあ! 薬師のみなさんに申し訳なかったんだわ!」  犬獣人はカラカラと笑う。少し待ってもらい、納期の表をまとめ、犬獣人に渡しながらヴォルフィは言う。 「今回のご注文分は三日後にお渡しします」 「早い!」 「……他に仕事がないですからね」
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