薬師ヴォルフィの理想と現実・その2

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 森の奥深くに警邏隊の犬獣人が紹介してくれた卸業者の家はあった。ヴォルフィが扉を叩くと、中から出てきたのは蛇獣人で「ご足労おかけしました」とヴォルフィに丁寧に礼を言った。蛇獣人はヴォルフィに温かいお茶と菓子を出してくれ、取り扱っている原料を見せながらとても丁寧に説明をしてくれた。原料はかなり良質なもので、種類も豊富だったので、調剤できる薬の幅が広がりそうだ。 「ナータンさん、ぜひ取引をお願いしたいのですが、料金を教えていただけますか」  蛇獣人のナータンが持ってきた料金表を見て、ヴォルフィは思わず眉をひそめる。 「本当に、このお値段ですか?」 「あ……あの、量を多めにお買い求めいただけたら、もう少し勉強いたしますが……」  ナータンがとても困った声で言うので、ヴォルフィは胸ポケットからペンを取り出し、急いで注文書を記入し、渡した。蛇獣人は目を通すと、信じられないという表情で、何度も注文書とヴォルフィの顔を見比べる。発注量が多いばかりでなく、単価の部分が二重線で訂正され、価格が上がっていたからだ。 「ちょっと安すぎますよ。これまでもっと粗悪な原料しか仕入れられなかったので、これくらいは出させてください」 「いや……ですが……」 「これからも長くお付き合いいただきたいんです」  蛇獣人はぶんぶん頷くと、「いい原料が手に入りましたら、ヴォルフィさんへ真っ先にお知らせしますね!」と嬉しそうな声で言ってくれた。
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