サキュバスリリスとヴォルフィの店

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サキュバスリリスとヴォルフィの店

 地図を辿って着いた店舗には、小さな五弁の花がいくつか描かれた看板が下がっていた。「ヴォルフィ薬局」の表記があるので間違いない。扉を開けるとシャランと優しい音のドアベルが鳴った。 「いらっしゃいませ」  やや低めの甘く心地よく響く声にリリスの胸は高鳴る。白いシャツとベージュのトラウザーズを纏った青年は、職場の奥様方が言っていた通り、「端整な顔立ち」の「優男」だった。リリスは彼のことを一目でいいなと思った。平均より少し高い程度の身長で、やや線の細い体型、理知的かつ柔和な雰囲気で癖のない整った顔立ち、焦げ茶色のさらりとした髪、綺麗な琥珀色の瞳。彼を構成する要素はどれもリリスをときめかせた。 「どうなさいましたか?」 「あの……手の荒れがひどいので、痛痒さと汁と血に効く塗り薬が欲しいのです」  リリスは手を見せながら困った症状を伝えた。それでしたらおすすめの薬がありますと言ってヴォルフィは店の奥に入り、小さな瓶と小さな木べらを乗せたトレイを持って戻ってきた。 「合わないようでしたら別の薬をご提案しますから、少しだけ塗って、様子を見ていただきたいんです」 「はい」 「手を出していただけますか」  ヴォルフィは瓶から木べらで少量の塗り薬を取り、リリスの手にそっと落とした。 「沁みたり痒くなったりしていませんか?」 「いいえ。全く」 「よかったです。手になじませて、しばらく様子を見てください」
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