薬師ヴォルフィの理想と現実・その2

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 話がまとまったのでヴォルフィが挨拶をして出ようとすると、ナータンがあわてて声を掛けてきた。 「ああ、ヴォルフィさん! 胸ポケットにインクが!」  シャツの胸ポケットを見てみると、青インクが滲んでいる。注文書を急いで書いた時に、ヴォルフィはペンの蓋をきちんと閉めそびれていたのだ。 「びっくりさせてしまってごめんなさい。僕は本当にうっかり者で……。家へ帰ってすぐ落とします!」  気を遣わせたくないと思ったヴォルフィは、蛇獣人ナータンの家をそそくさと後にした。  購入した原料を詰めた袋を背負い、ヴォルフィは明るい気持ちで帰路に就いた。これからは販売できる薬の種類を増やせる。とても質のよい原料を扱う店だったし、店主のナータンも礼儀正しくてとても感じがよかった。最後にちょっと失敗してしまったのは恥ずかしかったけれど、いい取引先に恵まれてありがたい。警邏隊の犬獣人に今度会ったら礼を言おう。そんなことを考えていたところ、件の犬獣人の姿が見えた。体格がよいし、警邏隊の制服は目立つのである。ヴォルフィが声を掛けようとした瞬間だった。
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