薬師ヴォルフィの理想と現実・その3

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 ディーノはたびたびヴォルフィの家に泊まるようになっていた。自分の休日前夜に、折り詰めと酒を持参して押しかけてくるのだ。 「ここは居心地がいいし、二日酔いしても薬があるからな!」 「その薬代はさすがに取るからね」  ヴォルフィはディーノが泊まりに来るたび、守秘義務に反しない範囲で、警邏隊の話を聞いていた。そのうちヴォルフィの想像は確信に変わった。つまり、獣人と亜人に回される仕事は、面倒で危険を伴う割に旨味が少ないのだと。給与も人間より少し低いようで、ヴォルフィは他人事ながら悔しく思う。 「まあ、仕方ないさ。何年か前まで、獣人と亜人は警邏隊に入隊することすら許されなかったんだから」  ディーノはカラカラと笑っていたが、ヴォルフィのやるせなさそうな表情を見て真顔になり、続ける。 「俺が獣人亜人枠で入隊を許されたのは事実だし。でも、入ったらこっちのもんだろ。活躍して出世して、内側からちょっとずつ変えていけばいい」 「そうかもしれないけど……」 「それに俺は、ヴォルフィほど人がよくないから、お前を利用してるよ」 「利用!」 「そう! 俺、獣人亜人窓口だから、有能な奴らに協力してもらって、自分の点数稼いでんだよ!」  ディーノは再びカラカラと笑う。ディーノの言葉が本当だとしても、彼は相手も得をするようにきちんと考えてくれている。自分が得をすることしか考えない者に何度も出会ってきたヴォルフィは、それで充分ではないかと思った。
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