薬師ヴォルフィの理想と現実・その3

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 ディーノが珍しく気まずそうな表情を浮かべるので、ヴォルフィはあえて淡々と続ける。 「王都に来る前に付き合ってた子とは、なんだかんだありつつもそこそこ上手くいってると思ってたんだ。所帯を持とうと一生懸命働いて、ようやく目標金額が貯まって求婚(プロポーズ)しようとしたんだけど。疲れが溜まってたんだろうな、その日がちょうど満月だったのもあって、彼女の前でうっかり変身しちゃったんだ。『騙された』って言われて、それきり僕の家に来なくなっちゃった。だから諦めて、貯めた金で店を構えることにしたんだ」 「隠してたんか? 人狼だってこと」 「うん。前住んでた町は、王都よりもっと獣人の扱いがひどかったから、一生隠すつもりだった」  ディーノはしばらく天を仰いでいたが、やがて口を開いた。 「うーん……。次に付き合う子には、人狼だってこと、言った方がいいんじゃねえ? ヴォルフィ、お前、几帳面なようで、意外とうっかりしてるし」 「悔しいけど、うっかりしているところは否定できない」 「あとさあ、次はヴォルフィから好きになった子の方がいいって。好きな子のためならがんばれる方だろ、お前」 「いや、もう、しばらく、恋愛はいいかな」
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