薬師ヴォルフィの理想と現実・その3

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 少しでも話をしたくて、他に困っていることがないかとヴォルフィが訊ねると、彼女は貧血がひどいと答えた。白い肌は確かに血の気を感じさせない。単に色白なのではなく、体調が悪かったのだ。もう少し頬に赤みが差したら、より可愛らしく……。浮かんでくる邪念を振り払うべく、ヴォルフィは皮膚薬が沁みていないかを訊ね、商品の準備をするために店の奥へ戻った。  薬に注意書きを添え、袋へ詰めている間に、ヴォルフィは少し冷静になる。彼女はとても可愛らしいが、少し幼く見える。「見える」のではなく、本当に「幼い」のかもしれない、と。ヴォルフィはあくまでも可愛らしい雰囲気の大人の女性が好きなだけで、こどもを恋愛対象として見ることはない。こどもはあくまでも庇護すべき存在である、というのがヴォルフィの倫理観である。  彼女の年齢を知る方法はある。会員登録だ。登録を断られたら、もうこの店に来る気はないのだから、諦めもつく。そんなことを思いながらヴォルフィが用紙を差し出すと、彼女はあっさり記入してくれた。 「ヴォルフィと申します。リリスさん、ですね。今後ともどうぞよろしくお願いいたします」  思わず声がやたら明るくなってしまったことは否めなかった。  リリスが帰った後、ヴォルフィは苦笑する。何が「いや、もう、しばらく、恋愛はいいかな」だ。あっさり恋に落ちてしまった。  がっついていない時の方が出会いに恵まれる。そういうことはある。
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