薬師ヴォルフィの理想と現実・その4

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 リリスに処方している貧血薬の効きがだんだん悪くなってきたので、薬を変えた方がいいだろうとヴォルフィは考え、新たな原料を買うために蛇獣人ナータンの店を訪ねた。 「貧血に効果のある原料、ですか」 「はい。これまでの薬では効果が見られなくなってきたお客さんがいるので、違う薬を作ってみようかと」  ナータンがお茶とお菓子を勧めるので、ヴォルフィは遠慮なくいただくことにする。ここで出されるものはいつもとてもおいしく、ハズレがない。 「他の原料を卸すことはもちろんできますが、ヴォルフィさんなら今の原料でも充分よい薬に仕上げておられると思うのです。別の要因も探ってみた方がよいかもしれません」 「別の要因?」 「単純な栄養不足の貧血ではなく、もっと大きな別の病気が隠れていることはありえます。お医者様に診ていただいた方がよいのではないでしょうか」  なるほど一理ある、とヴォルフィは思った。リリスが何か病気にかかっているのなら、善意でヴォルフィが薬を飲ませている間に、彼女の健康を却って害してしまいかねない。  ヴォルフィは新たな薬を作ることはやめ、次にリリスが店に来たら病院へ行くよう勧めることに決めた。リリスに行きつけの病院がないなら、薬の卸先の病院を紹介することだってできる。これまでの薬も数包渡しておけば、病院に行くまでに気休め程度は役に立つかもしれない、と。
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