薬師ヴォルフィの理想と現実・その4

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 金曜の夕方、ヴォルフィはステレラの根を刻み、皮膚薬と自分用の狼の力を抑制する薬を作っていた。ヴォルフィはステレラを庭でも栽培しているが、鉢に植えて室内に置いているものをつい使ってしまう。薬の作り方を教えてくれた祖父の「ステレラは必ず鉢植えと外植えの二手に分けて育てなさい」という言葉を、ヴォルフィは忠実に守り続けている。  ステレラは本来外植えの方が向いている。わざわざ鉢植えも育てる意味がわからず、幼い日のヴォルフィは理由を訊ねた。祖父の時代は人狼の扱いが今よりもっとひどかったので、なかなか一箇所に定住することができず、夜逃げすることも珍しくなかったそうだ。鉢植えならすぐに持ち出せる。他の原料はどうにでもなるが、ステレラは替えがきかない。鉢植えのステレラは、何かあった時のための備え(リスクヘッジ)で、生命線(ライフライン)なのだ。現在のヴォルフィは、外まで取りに行くのが面倒で、つい室内のステレラを使ってしまうだけだが、祖父の考え方の根幹は大切に受け継いでいる。  王都(ここ)は気候も土もステレラの栽培に合っているようだし、少しずつ薬局経営も軌道に乗ってきている。このまま定住できたら、とヴォルフィは思う。  自分用の薬ができたので、ヴォルフィは効果を確認するために飲んだ。上手くできている。これならしばらく大丈夫だろう。常備している薬がなくなる前に作り、古いものを使い切ったら新しいものに切り替える。ヴォルフィは自分の薬だけではなく、販売している薬も全てこの規則で作業を進めていた。なくなってからあわてて作って失敗したら、元も子もないからだ。  皮膚薬は冷めないと詰め替え作業ができない。リリスとの話を終えてからか、明日の朝に作業することにしよう。そんなことを考えながら、ヴォルフィは店頭へ戻った。
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