薬師ヴォルフィの理想と現実・その4

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 リリスさん、こんなことになるなんて昨日までは想像もしていませんでしたけど、あなたが僕を求めて来てくれて、すごく嬉しかったんです。ずっとずっと大切にしますから!  昨夜を反芻するようにリリスと甘く愛し合う夢を見たヴォルフィは、夜明けに目を覚ました。 「リリスさん……?」  昨夜一緒にいたはずのリリスの姿がない。全て都合のよい夢だったのかと掛布をめくると、シーツの血の痕がヴォルフィの目に映った。夢ではなく現実だ。  初めての相手が自分では嫌だったのだろうか、とヴォルフィは非常に落ち込んだ。確かに昨夜のリリスの精神状態は普通ではなかった。単にサキュバスの本能的な飢えに耐えられなくなって通いの薬局に来ただけで、飢えが解消され冷静になったら、隣にいるのは好きでもなんでもない男。いわゆる不応期(賢者タイム)というやつでシビアに判断して帰ってしまった、ということではないのか。  考えても仕方がない。ヴォルフィは身支度を整え、朝食を取り、すっかり冷めた皮膚薬の詰め替えを行った。携帯用の小さな缶と、徳用の瓶詰めと。全てを綺麗に入れ、用具を洗い、片づけた。単純作業はいい。やれば必ず終わるし、達成感がある。やるべきことが片づいても、ヴォルフィの気持ちはぐちゃぐちゃなままだったけれども。
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