薬師ヴォルフィの理想と現実・その4

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 次の金曜、リリスはヴォルフィの店に来なかった。ヴォルフィの落ち込みは更にひどくなり、もう自分から会いに行ってしまおうかと思った。会員登録用紙に住所を書いてもらったので、会いに行けないことはないのだ。そこまで考えて、ヴォルフィは大きくかぶりを振る。自分がリリスの立場だとして、逃げた相手から家へ押しかけられるなんて、気持ち悪いし怖すぎるだろう。そもそも会員登録の住所欄は、薬局の利用者の大まかな生活圏を参考にするために作ったものなので、私的に利用するのはヴォルフィの職業倫理に反する。そんな訳で、ヴォルフィはリリスのことが非常に気になりつつも、動くことができなかった。  その次の金曜にようやくリリスはやってきた。ヴォルフィは彼女の今にも倒れそうな様子とひどい顔色を見て、とにかく夜道の危険性を伝えた。リリスが健康で安全に過ごすことが最優先事項だと思ったからだ。  それから週に一度、リリスはヴォルフィの家に泊まるようになった。一回目の行為は一刻も早く精気を提供してリリスの飢えを満たしてあげなければと最初の頃こそ思っていたが、しばらくして自分は単に我慢できずにがっついているだけだと気づいた。二回目以降は愛おしい相手との行為を噛み締めるように何度も味わっているくせに、好意を告げることは二の足を踏んでいる。卑怯なやり方だとヴォルフィは自己嫌悪していた。だが、リリスがヴォルフィを単なる精気提供機だと思っているのなら、不信感を抱かせるような行動はとれないではないか。ヴォルフィはそんな風に悲観的な見方をしていた。
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