薬師ヴォルフィの理想と現実・その5

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薬師ヴォルフィの理想と現実・その5

 金曜の夕方、ドアベルが鳴ったので、店の奥で作業をしていたヴォルフィはあわてて店頭に出てきた。 「ヴォルフィ、悪い。うっかりぶつけたから手当てして」  ヴォルフィがそそくさと腕を消毒し湿布を貼って包帯を巻くと、ディーノがのんびりした声音で言う。 「今日は早番だからこれで終わりなんだけど、話もあるし、このまま泊まっていい?」 「きょ、今日は駄目!」  あわてている様子のヴォルフィにディーノはやはりのんびり続ける。 「駄目?」 「……駄目」 「何? 恋人でもできた?」 「……まだ、そういうんじゃ、ないけど…………」  ディーノはにやりと笑い、飄々と続ける。 「ふうん。()()ねえ。今日、俺が来た時もえらく嬉しそうな顔で急いで出てきて、俺だって気づいたらがっかりした顔してたもんな。あーあ、傷ついちゃうなー」 「そ、そんなこと……」  ディーノはにやにや笑いながら小さく両手を挙げて言う。 「わかった、わかった。今日は邪魔しねえから。いつも金曜に来る訳? その子」 「……そう」 「了解。これから金曜は外す。次の水曜に泊まりに来るから、その時にじっくり聞かせてくれよ」  気まずそうな表情のヴォルフィを残し、ディーノはカラカラと笑いながら出て行った。
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