薬師ヴォルフィの理想と現実・その5

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 次の水曜の夜、ディーノはいつもよりも豪華な折り詰めを持って、ヴォルフィの店へやってきた。 「今日はずいぶん豪勢だね」 「ヴォルフィにちょっと手伝ってもらいたいことがあるからな。餌付け」  ヴォルフィが閉店の札を下げて戸締りをし、店の奥の自室に戻ると、ディーノは食事の準備を済ませていた。テーブルに料理を並べ、食器を出し、湯を沸かして茶を淹れていて、準備万端だ。勝手知ったる他人の家である。 「まずは業務連絡。ヴォルフィに調査協力してほしい」 「調査協力? 僕に?」 「そう。最近事件が続いているだろう」 「確かに物騒な事件がいくつか起きてるみたいだけど、内情を僕みたいな一般人に明かしてもいいの?」 「ヴォルフィは喋らないだろ。そこは信頼してるし、上司から許可も得てるよ」  ディーノは鞄から折り畳んだ紙を取り出した。 「連続婦女暴行事件と連続器物破損事件、どうもどちらも人狼が絡んでいる様子なんだ」 「だから僕に」 「そう。婦女暴行の方は人狼の間で流行っている薬物が使われていて、器物破損の方は現場に残された足跡が人狼っぽいから、上司は同一犯だと断定してるんだ。でも俺は違うと思ってる」 「違う?」  ディーノは取り出した紙を広げる。王都の地図だ。
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