20.どこから間違っていたの? ***SIDE妃

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20.どこから間違っていたの? ***SIDE妃

 ホスタ王国の第三王女、その肩書きは隣国の王の妃に相応しい。そう信じて疑わなかったし、父が言う通り振る舞う気はなかった。もし嫁げば嫁ぎ先を優先するべし、そう教えたのはお母様だ。実際、王妃としてお母様もそのように振る舞ってきたのだろう。  しかし嫁いだ先には、すでに別の妃がいた。夫となる王フィゲリウスと相思相愛の美しい女性だ。リンゲルニア妃、そう呼ばれているが事実上の正妃だと感じた。私との婚姻は無理やりねじ込んだ横槍で、この話は国中が知っている。  とんだ道化だわ。  ミューレンベルギア妃と呼ばれても、常にリンゲルニアの次。結婚式も、初夜も、妊娠すらも。数日遅れで、私の妊娠も発覚した。ほっとする。  この国に嫁ぐまで知らなかった。国境でのいざこざも、それを口実に父王が妻帯者に私を送り込んだ事情も。リグニス国の王宮に勤める者は口が硬い。決して私を蔑ろにしないし、口さがない噂も耳に入れなかった。  民草は違う。お抱え商人として宝飾品を持ち込んだ男は語らないが、連れてきた荷運びの者は口が軽かった。僅かな金額でペラペラと喋る。愛し合って結婚した国王夫妻に刺さった棘、それが私の立場だった。  そう、彼らにとって棘程度の存在なのだ。チクチクと痛むけれど、無視すれば我慢できる。王は表面上、私とリンゲルニアを同等に扱った。二人の妃の地位は同じなのだと示す。それでも貴族は差をつけた。  当然だわ。私が逆の立場でも、同じように差をつけて応対する。だって、王の寵愛を受けるのはリンゲルニアだけ。私は政略結婚の駒に過ぎない。もし追い返すことが可能なら、いつでも戻されてしまう。  こんなはずではなかった。そんな思いが強くなる中、父王から手紙と茶葉が届く。妊婦に良いお茶だと言って、リンゲルニアに飲ませろと。記された内容で、茶葉が毒だと気づいた。  捨ててしまえばいいのに、捨てられずに保管した。でも飲まないよう、特別なラベルを貼って。父の手紙は燃やす。こんな内容、誰かに読まれたら私の身が危なかった。  数ヶ月後、臨月まであとわずか。先に産気づいたのは私だった。無事に出産できてほっとする。元気な王子だ。これで私の役目は終わり。そう思ったのに、数日後にリンゲルニアが亡くなった。第二王子出産に伴う産褥だと思われたが、私は知ってしまう。  私を信用していなかったのか。結婚に同行したホスタ王国の侍女にも、父は指示を出していた。私が肩身の狭い思いをしないよう、手伝ってあげてくれ、と。指示された通り、侍女はラベルの違う茶葉を、リンゲルニアの紅茶に混ぜた。  ああ、もう後戻りはできない。覚悟を決めて、父の命じるままにローランドを王にするため動いた。侍女は国へ帰したが、もし誰かが事情を知っていたら? 第一王子の地位は剥奪され、私とローランドは放逐される。  役立たずの烙印を押され、国に帰っても居場所などないのに。必死でしがみついた。ローランドが王になれば、病弱な第二王子が死ねば、国母としての私の地位が確定する。必死にやってきたのに。 「まさか、ローランドがやらかすなんて……ね。どこから間違っていたの?」  最悪の結末を迎える私は、父に無能と罵られるのか。せめてローランドだけでも助かれば……そう思いながら首に刃を受けた。
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