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87.ご都合主義でもいいわ
皆で結婚式? 話を聞いたビオラは大喜びした。神官のルピナスと結婚後は、神殿の仕事を手伝う予定だ。男爵家の養女でも、貴族社会から一線を引いた生活になるだろう。最後に華やかな舞台に上がりたい。ごく自然な感情だった。
カレンデュラにしても、本来の結婚式はセントーレア帝国だ。家族はともかく、友人達を呼ぶのは難しかった。ティアレラは国防の要であるカージナリス辺境伯家の跡取りでもあり、国外への招待は断られるだろう。リクニスで披露宴としての式を挙げ、誓いは帝国で立てればいいのでは? と考えた。
隣国エキナセア神聖国がきな臭いのも手伝い、この際だから早めに結婚して子を産みたい。ティアレラは、今回の提案を前向きに捉えていた。それに親友の花嫁姿も見られるなら、万々歳だ。
義妹リッピアの愛らしさにメロメロのクレチマスは、反対する理由がない。結婚式は一日でも早く、すぐにでもリッピアを囲い込みたかった。妻という響きもいい。にやりと緩む口元を引き締めた。
「誰も反対しないのか」
国王フィゲリウスは溜め息を吐く。デルフィニューム公爵オスヴァルドまで、賛成に回ったと聞いて抵抗を諦めた。
リクニス国の風習では、結婚式に贈答品を用意する。花嫁花婿が揃って使うもの、カトラリーや揃いのカップ、対になった宝飾品など。二つでひとセットになった品を贈るのだ。高価でなくても構わないが、贈る品は限定された。
ここで問題が発生する。民にまで話が広まり、あちこちで結婚式ブームが巻き起こったのだ。このまま行くと、贈答品が枯渇する。お揃いならリボンでもいいのだが、貴族や王族となれば、話はややこしかった。
「贈答品なしでいいじゃありませんの」
相談したカレンデュラに一刀両断され。話はとんとん拍子に進んだ。花嫁花婿が、祝いに駆けつけた民と区別できるように。ただそれだけの目的で、花嫁花婿の衣装は白に決まった。当然だが、日本でのウエディングドレスの概念が持ち込まれている。
純白のドレスと薄グレーのタキシード。ここが確定すれば、集まる友人達は華やかな色を纏う。準備は思わぬ形で着々と詰められていった。
「コルジリネを借りてくる方法を考えなくては……」
カレンデュラは皇帝陛下の説得のために手紙を書き、その隣でクレチマスもタンジー公爵夫妻に伝令を出した。ティラレラは両親を迎えに馬に跨り、ビオラも純白の布を手に入れてドレスを縫う。
思いつきから溢れでた話は、周辺国を巻き込む形で広がり続けた。ホスタ王国でも日をずらして、同様の結婚式を企画している。
話が盛り上がったところで、エキナセア神聖国に動きがあった。新しい教皇が決まったのだ。前教皇と関わりのない、新興派から選ばれた。教皇派も聖女派も、さまざまな悪事がバレて動きが取れない。そのタイミングで、強引に推し進めた。
「ご都合主義って、こういうのを言うのよね」
カレンデュラの呟きに、友人達は口々に同意する。都合が良くても、強制力のお陰でもいいわ。平和が一番。そう締めくくり、顔を見合わせて笑った。
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