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私の名前は永谷清美(ながやきよみ)。何処にでもいる40代の中年女性である。
───私はスーパーの中を徘徊している。場所はお菓子コーナー、スナック菓子や飴、ビスケットやチョコレートが並んでいる。
「あと一回だけ、あと一回だけ…………」
店内に響き渡る音楽。そして神経を澄ませ、私はキョロキョロと辺りを眺める。一般客、店員がコーナーを離れた同時に、私は決行した…………。
(やってしまった…………)
頭の中に後悔の念が広がる。私は、やってはいけない事をした。それは万引きだ。私はアルミ包みに入ったチョコレートをカバンに入れ、レジに向かう…………。
そして買い物カゴに入った商品を精算し、何食わぬ顔で外に出る…………。ちなみに私は、30代の頃に万引きで捕まった事があり、刑務所で服役していた。服役中、医師に診断されたのはとある病気。
───(窃盗症)だと。理由は何となく分かる。何故なら私が育った家庭が異常だったからだ。ギャンブル狂の父親による家庭内暴力に、男遊びが激しい母親。そんな家庭で育った私は、ストレス発散として初めたのが万引きである。
「やっぱり、私は止められない…………」
アパートに帰って冷蔵庫に、これまで万引きしたアルミ包みのチョコレートを入れた。止められない理由?それは万引きして成功した時の快感が気持ちいいから。止めたいけど、止められない。自分だが、自分ではない(何か)に支配されているような感覚だ。不思議に思った、ムショを出所し、このスーパーで何日もチョコレートを万引きしているけど、捕まった事がない。
(捕まれば、全てが終わるのかな?…………)
私は窃盗症に苦しみ、早く自分を捕まえてくれ。と、祈る。チョコレートを万引きする理由はただ、簡単だから。
───次の日も、その次の日。そして次の日も、私はチョコレートを万引きする…………。
そんなある日。
「少しいいかな?…………」
私の後ろから肩を叩いたのは、メガネを着けた中年の店員。
(やっと、苦しみから解放される…………)
連行される私。しかし事務所に連行されて、そこにいるのは刑事だった。おそらくマークしていたのだろう。
「そこに座って頂けますか?」と、刑事は言う。私は素直に従い、全てを話すつもりでいた。
「アナタに感謝を言わせて下さい」
「えっ?…………」
刑事の言葉に、私は?になる。何故なら言っている意味が分からないから。万引きしたのに、感謝?…………。ひねくれた私の気持ちに、逆に怒りが沸いてくる。
「アナタが万引きしたそのチョコレート、ただのチョコレートじゃないんだよ…………」
刑事は私が万引きしたアルミ包みのチョコレートを開き、説明する。包みから解放されたチョコレートの匂いは、独特で中毒性のある匂いだった。
「アナタが盗っていたのは違法薬物が入ったチョコレートだ。とあるアジア系の半グレ組織がアルミ包みに入ったチョコレートタイプの薬物を陳列棚に入れて、そしてその顧客が新しいチョコレート箱に入ったお金を陳列棚に置いて顧客に取り引きしていた。アナタは薬物の流出を阻止していた形になる…………」
刑事の言葉に、私はさらに???になる。違法薬物、そんなモノがこんな近所で取り引きされていたなんて、私は背筋が凍った…………。
それから、私は警察から薬物流出阻止しました感謝と、万引きによる厳重注意を受けた…………。
───その事件を機に、私は万引きを止めた。新聞には、(万引き犯、薬物の流出を阻止)と記載された。
「もう、万引きはこりごり…………」
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