第三章 狐茶屋創業記

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 ごくり。  碧葉と律は知らず生唾を飲み込んだ。  宗介ほどの手練(てだ)れが何と(ひょう)するのか、胸の(あた)りがぎゅっと縮むような思いがする。 「素材としちゃあ、最高の部類だけど——まだまだ遊べるし、まだまだ面白くできますね」  碧葉は思わず目の前の宗介を(あお)ぎ見た。 「まだ改善(かいぜん)余地(よち)があると……少なくとも私には、これ以上何も思いつかぬが……なるほど商売人とは、かくも貪欲(どんよく)であるべきなのか……」  宗介は白い歯を(のぞ)かせ笑う。  べらんめぇ調(ちょう)はすっかり()りを(ひそ)め、すっかり気持ちの良い男——千両役者(ふう)面目躍如(めんもくやくじょ)である。 「はは、(たん)(よく)の皮がつっ張ってるだけなんですけど。いや例えばね、お侍様。さっきも凪人と話してたんですが、例えばあの折箱に……」 「……待て、宗介。私のことは碧葉でかまわぬ。皆も私をそう呼んでいる」 「お、いいんですか? なら遠慮無く! あのね碧葉様、こっちの凪人ってのは、なかなかの絵師なんですよ。だから……」  打ち()けた様子で話し出した碧葉と宗介の様子に、律と凪人は顔を見合わせ、微笑みを交わす。  よかった……!  二人は声を出さず、口の形だけで互いに思いを伝えた。
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