第二章 江戸の狐の恩返し

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5、進むべき道  うつむく碧葉の脇に、いつしかあの子狐が寄り添っている。  子狐は何か言いたげに碧葉を見上げながら、しきりに尾を振った。  慰めているのか、励ましているのか——その仕草には碧葉を気遣う何かが宿っている。 「お前……」  力無く呼びかけた碧葉に向かい、子狐は懸命に声を上げた。 「あぁお、わぉん、きゅいぃっ……」  碧葉はうつむいたまま、絞り出すように()びる。 「済まぬ、子狐……私には、お前の言葉が、分からぬのだ……」  すると——。  積もった雪を投げ合い遊んでいた双子が、ふいに顔を見合わせた。  くすくす。くすくす。  笑いながら目を見交わすと、子狐の脇へ跳ねるように近づいて来る。 「そんなの、簡単」 「そんなの、わけない」  金星は、襟元から樫の葉を一枚取り出し子狐の頭に載せた。 「人にしましょか子狐を」  真白は双子をやんわりと(たしな)める。 「これ……まだ話の途中ぞ。しばし待たぬか、金星、銀星」  だがその声はもはや、双子の耳に入らぬようだ。 「人にしましょか子狐は」  銀星は座り込む碧葉を立たせると、子どもとは思えぬ強い力でぐいと後ろに押しやった。  子狐と碧葉とのあいだに広い距離が開く。  じっと子狐を見つめ、双子は誘うように言葉を(つむ)いだ。 「人になれ。さすれば話せもしましょうぞ」 「人になれ。さすれば恩も返せましょうぞ」
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