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「……!」
双子の言葉に目を見開いた子狐は、手足を踏ん張り小さな体に力を込める。
うふふふふ。
金星は子狐に向かい、指を振り上げた。
「ひとぉつ。高く高く跳び上がれ」
あはははは。
銀星は子狐に向かい、掲げた腕を縦にぐるりと回す。
「ふたぁつ。後ろに回って地面に戻れ」
「さあさあさあ!」
「ゆけゆけゆけ!」
けしかける双子に急かされて、必死に跳んだ子狐がくるりと宙がえりをした瞬間——浮かんだまま動きを止めた体が眩い光に包まれる。
「……!」
言葉を失い、碧葉はただ目を見開くばかり。
「やれやれ金銀め、まこと聞かぬのう。ならば……」
苦笑しながら肩をすくめた真白は、ふいに碧葉へ問い掛ける。
「名を付けよ。この者の名を、そなたは何とする」
「名……? 私が……子狐、に……?」
今起きていることに、頭が追い付かぬ。
先刻の衝撃もまだ冷めやらぬままだ。
「……」
しかし俄の問いに戸惑いながらも、碧葉の中には浮かびあがるひと文字が——。
「……律……」
碧葉は使い古した馴染みの字書の版面を思い出す。
漢文の読み下しにいつも愛用していたあの字書。
屋敷の蔵に、今では住む者のいない屋敷の小さな蔵に……きっとまだ置いたままの、分厚い字書。
気に入りの字には朱で印を付けており、その中に「律」という文字があった。
——律。行人偏とは道を行くこと、聿とは正しく筆を取る姿。転じて律とは人として正しく歩むべき道を示す、道標の意なり。
「……」
人として正しく歩むべき道を示す、道標。
私が今まさに、求めているもの——。
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