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雪の中を、慌てたように律は立ち上がる。
ひとつに束ねた長い黒髪が、背中の中心に向かってさらりと垂れた。
「律……」
おずおずと碧葉は律の名を呼ぶ。
律は少し迷いながら、言葉を探した。
「碧葉、さ、ん……」
しいっ!
双子が神妙な顔をして、口の前に人差し指を立てる。
「さん、とは呼べないお侍」
「様、と言わなきゃ斬られるぞ」
こわい、こわい。
きゃはははは!
きゃはははは!
わざとらしく騒ぎ立てる双子に向かい、碧葉は躍起になって抗議した。
「な、何を言うか、私はそのような、乱暴者ではない……っ!」
そのやりとりに差し込む律の高く澄んだ声、目に飛び込むのは弾ける笑顔——。
「……碧葉様!」
慣れぬ草鞋履きの足を雪に取られながら、律は一心に碧葉の元へ駆け寄り、全力で抱きついた。
「碧葉様、碧葉様、碧葉様……っ!」
呆然と口を開け、碧葉は棒立ちになる。
律はまくし立てるように言葉を浴びせた。
「僕、ずっとずっとずっと、お礼が言いたくて……! 今までも、それに今夜も、助けていただいて……本当に、本当に、僕は……僕は、碧葉様が大好き……大好きです……!」
小さな子狐も、今やその姿形は美少年。
あまりに真っ直ぐなその言葉に碧葉の顔は赤らんで、返す言葉が出てこない。
それでも心は久方ぶりに高揚し、まるで母の愛に包まれた子どもの頃のように——深く満たされていた。
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