第三章 狐茶屋創業記

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 宗介はお得意の、してやられた、の顔をする。 「げ。お侍様もなかなかですね。商売なんざ何にも知りませんってお顔しながら、しっかり俺らを動かす算段(さんだん)なさって……」  とは言え正直、悪い話ではなかった。 ——この商売始めた頃は、まだ信用も実績もねぇから、前金(まえきん)なんざとんでもねえ、出来高制(できだかせい)が当たり(めぇ)だったしな……。御新規さんの狐茶屋じゃ、仕方がねぇか。金がねぇのも本当だろうし。ま、そのうち結果が出て、狐茶屋が(うるお)ってくりゃあ……自然と風向きだって変わるだろうしな。  ちらっと凪人に視線を合わせた宗介は、にっと悪戯(いたずら)な笑みを浮かべる。 「そんなら、お侍様。俺たちからも……ひとつ、御提案させてくださいよ。俺らに——何て言うか、もうちょい狐茶屋を派手にする仕掛けを……させちゃくださいませんか」  宗介は勢い良く両手を組んで、指の骨をぽきぽき鳴らした。 「こいつぁ俺らにとっても、初めての(こころ)みなんですけどね。まあ今まで色んな現場を見てきましたが……俺らにとって一番(つれ)ぇのが、実物がしょぼくれてるってことで」 「いや違うんですお侍様、宗介は狐茶屋がしょぼくれてる、って言ってるんじゃなくって……」  慌てて声を上げる凪人を、碧葉は苦笑で制する。 「……案ずるな、続けてくれ」 「要はね、ど派手にこっちが喧伝(けんでん)したのに、見に行ってみたらこれかよ、ってのがあるんですよ、中には。最初のうちは選ばねぇで仕事受けてたから、俺らも随分そういう煮え湯、飲まされちまって。おい、こないだのあれは何だよ、なんて瓦版の客に言われちゃあ、その後の信用に(かか)わりますからね。だから今じゃ念入りに吟味(ぎんみ)するようにしてるんですが、その目で見ると、この狐茶屋は——」
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