◆序◆ むかしむかし、あっただど

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◆序◆ むかしむかし、あっただど

 山奥の古びた神社。  夏の朝に蝉時雨(せみしぐれ)が降り注ぐ。  薄暗い本殿(ほんでん)の中は、少しひんやりしていた。  不思議な(かた)()は、僕の向かいで静かに座っている。  切れ長の目をしたその青年(ひと)は、どこか中性的だ。  スマートフォンのボイスメモを起動した僕は、慎重に録音開始のボタンを押した。  お気に入りのペンの先を、開いたモレスキンのミディアムノートにあてる。  メモこそ命の恩人だと、発明家のエジソンも口を酸っぱくして言っていた……らしい。    よし、準備完了。  僕は何となく姿勢を正す。 「OKです。じゃあ……よろしくお願いします」 「……それでは、ここ川澄(かわすみ)に伝わる伝説を——お聞かせいたしましょう」  語り部はそっと目を閉じながら、大きく息を吸い込んだ。 ****
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