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遥か、昔——。
それは人が地の覇者となるよりも、ずっと前のお話でございます。
ここ陸奥国川澄の辺りを広く統べておられたのは、数多の水源を掌握され、晴雨を意のままに操られる巨大な鈍色の龍、龍王様であられました。
龍王様の傍らには若く美しい二柱の雄龍が常に付き従っており、その名を白龍、黒龍と申します。
白龍も黒龍も、己の出自を知りませぬ。物心ついた時にはもはや、龍王様にお仕えしていた……。そんな具合だったのでございます。
実を申せば白龍も黒龍も、覇権をめぐる争いの果てに龍王様の手で滅ぼされた、別々の龍族の生き残り。
戦勝の証に収奪された、幼き御子であったのですが——。
しかしそのことを彼らに告げる者など誰もおりませぬ。
それはひとえに龍王様のお怒りを、恐れてのことでした。
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