◆序◆ むかしむかし、あっただど

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 (はる)か、昔——。  それは人が地の覇者(はしゃ)となるよりも、ずっと前のお話でございます。  ここ陸奥国川澄(むつのくにかわすみ)(あた)りを広く()べておられたのは、数多(あまた)の水源を掌握(しょうあく)され、晴雨を意のままに操られる巨大な鈍色(にびいろ)の龍、龍王(りゅうおう)様であられました。  龍王様の傍らには若く美しい二柱(ふたはしら)雄龍(おりょう)が常に付き従っており、その名を白龍(はくりゅう)黒龍(こくりゅう)と申します。  白龍も黒龍も、己の出自(しゅつじ)を知りませぬ。物心ついた時にはもはや、龍王様にお仕えしていた……。そんな具合だったのでございます。  実を申せば白龍も黒龍も、覇権をめぐる争いの果てに龍王様の手で滅ぼされた、別々の龍族の生き残り。  戦勝の(あかし)収奪(しゅうだつ)された、幼き御子(みこ)であったのですが——。  しかしそのことを彼らに告げる者など誰もおりませぬ。  それはひとえに龍王様のお怒りを、恐れてのことでした。
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