◆序◆ むかしむかし、あっただど

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 龍王様とはまさに荒魂(あらみたま)。炎のような激しさと氷のような酷薄(こくはく)さを、御身(おんみ)に宿されし御方(おかた)でございます。  御仕え申し上げた者たちは皆どこかで龍王様の逆鱗(げきりん)に触れ、(はかな)く命を落とすのが常でした。  けれども白龍と黒龍だけは双頭(そうとう)の龍のごとく互いを支え合い、(おぎな)い合いながら、長きに渡り過酷な日々を生き抜いておりました。  まさに絆が起こした奇跡と、そう申すより(ほか)はございませぬ。  やがて長い長い時が経ち、そんな二柱の献身が報われる時が参りました。  龍王様の覚えめでたい白龍と黒龍は、成体の龍となった祝いに()()を拝領することになり、川澄山中(さんちゅう)の龍神池を(たまわ)ったのです。  無論、龍王様がお休みになられたあとの(わず)かの()ではございました。  けれども……今日も無事に務めを終えたと、深く清らかな龍神池の底で安堵(あんど)の息をつくそのひと時は、白龍と黒龍が苦難の果てに勝ち得た安らぎの時——二柱が初めて知る、幸せの時だったと申せましょう。
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