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「……」
あれから何年、経ってしまったのだろうか。
目隠しは外されていてなんとか外界の様子は肉眼で見れるが、魔力を吸われる感覚しかない中で、完全に時間の感覚を無くしてしまっていた。
感覚遮断の魔法も展開されていたらしい。一部を除いて、手足も翼も尻尾も、動かそうとしても動かせなかった。こうなるなら無理にでも、サリターンに聞けばよかったか……そうしてふと思う。
クロアは、どうしているだろうか。
『根源』からの情報伝達も遮断されてしまっていて、『外』の状況なんて全く分からなかった。
不安で不安で仕方がない。
泣いている姿を想像するだけで、胸の奥が締め付けられるように苦しくなる。
今すぐにでもこの拘束を解いて、あの国へ戻りたい。
……完全な【原点】に成れれば、こんな制約なんて吹き飛ばせるのに。
「……不甲斐ない」
本当に不甲斐ない。そう思った。
おめおめと罠にかかり、本当に『魔力貯蔵庫』のように吊るされ、奪われ続ける有様。
なんなら世界を壊す結果になったとしても、呼び声を無視すれば良かったとすら思ってしまう。
……でも。それは、あの子の未来を奪うことにかわりない。
それだけは、あってはならない。ならないのだ。
かといって、サリターンをあのまま放置していれば、彼女がいる国が滅んでしまう。
それも絶対に、あってはならない。
だから。
「――来い」
使い魔を一匹だけ呼んだ。
肩辺りで影になっていたところから、小さく黒い生き物が出てきた。
その生き物、使い魔は主人の命令を待つように肩に座った。
「私の影から、アレを持ってきてくれ」
的確に声に出して命令すればこんな抽象的な表現でも、使い魔は私が何が欲しいのかすぐに察しがつき、持ってきてくれる。
使い魔は私が作った『式神』のようなモノだ。故に魔力も繋がっていて、思考すらも使い魔に伝わることができる。
その命令を聞いた使い魔は理解したように頷いて、影に潜った。
アレを持ち出すのには時間がかかる。潜られても絶対に見つけ出せないように、奥底に沈めて隠しているので一匹の使い魔だけではかかってしまう。
だからその間に……私は、ある魔法を創り上げる。この城にいる魔族たちを、悪魔の創造主を滅ぼす魔法を、精密に、色濃く、創り上げる。
手足は動かせなくても“魔力”だけで創り上げるのは、長く生きていく中で編み出した『技術』のようなモノだ。それはサリターンでも知らないモノなので、隠れて創作することもできる。
そうして創り上げたモノを、城いっぱいに展開させて、ある事が起こった時に発動するようにした。私の魔力で『汚染』されたこの魔王城では、魔法の痕跡なんて簡単に消せる。
準備は整った。
その時、使い魔が影からあるモノを持って現れた。
「……上出来だ」
改めて使い魔が持ってきたモノを確認する。
――それは、勾玉のような形をした宝石であり、もう一つの『根源』そのものだった。
あの時……天上界の最秘奥にて見た、あの宝石状の『根源』とそっくりそのままの形で。
当時、周りにも似たような宝石が保管されていたが、かつて取り込んだその『根源』が一番強い力を持ったモノだと実感していた。
……同時に、『根源』は片割れでしかない、不完全だったのだと。
「まさか、こんな形で使うことになるなんてな」
手は動かせないので、唯一動かせる首を動かしてその『根源』を口に放り込ませる。
下がれと命令すれば、使い魔は元の影の中へ戻っていった。表に出てて、何か支障が出てしまったら元も子もない。
何故ならば。
「……んぐっ!」
もう一度。
片割れであるソレを――躊躇なく飲み込み、取り込むためだ。
綺麗に歯を立てずに、ごくんっと。
あの時と同じように。
完全に、なるために。
「――ぐ、ぁ――‼︎‼︎‼︎」
瞬間にあの時の痛みが入った。
肉体が、精神が、魂が、何の容赦もなく、飲み込んだ『力』に侵食され犯され交わっていく感覚が。
この世のものとは思えないほどの痛みが、もう一度襲いかかってきた。
吊るされている状態で暴れているので、ガキンガキンと鎖が鳴り響く。
「ゔ、ぐっ……ぁが、ああああ‼︎」
だがあの時とは違って、声がろくに出なくなった。
掠れたような声しか出ず。しかし、痛みはあの時とは比にならないほどになっていく。
自分を構成する全てが、今度は静かに作り変わっていく。
体が取り込んだ力によって壊れないように。
精神が無色の力に取り込まれないように。
魂がその力の重さで潰れないように。
遠慮なく、一気に、徐々に、ぐちゃぐちゃに、愚呪愚呪に作り変わっていき……その時だった。
ドクンッ!
そう『全て』が脈打って。
私の中の、古い昔に取り込んだ『黒い根源』と、ついさっき取り込んだ『白い根源』が、混ざった。そう直感で分かった。
まるで、『陰陽道』とやらにある、黒と白が上手く合わさっている『太極図』のように。
「ぁ――」
かろうじて見えていた景色が消えた。
真っ黒に包まれたまま、深い眠りに落ちていき――そして、そのまま、何も感じなくなった。
眠る直前。
『父』の怒声のような、悲鳴のような声が聞こえた気がした。
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