1 再会

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 きらりと手が光る。 「ねーねー、しーちゃん」 「ん? なんだい?」 「この魔法ってどうやって大きくできるの?」 「ああ、これは流石に難しいか……だがこうすれば……」 「わっ! 大きくなった!」 「な。工夫次第で魔法は大きくなるんだ」 「わーい! しーちゃんすごーい! ありがとー!」 「はは。ほら、朝食はまだだろう? そろそろご飯にしよう」 「はーい!」  焼ける音。  椅子を引く音。  カチャカチャと食器具を分ける音。  魔法で作られた水の音。  朝の鳥の(さえず)りが聞こえる。  窓から差し込む朝日が、希望の光のように、とても明るかった。 「今日はどうしようか?」 「んー、お父様もお母様も、カーラといつも一緒だし……今日は日帰りでどこかいくって」 「そうか。クロちゃん一人で留守番か」 「うん」 「……全く……」 「しーちゃん、めっ!」 「むっ」 「ダメだからっ、めっ!」 「ぬっ……すまん」 「ふふーん。いいよ!」  しーちゃんの頭は硬いから軽い力でポンポン叩いて(なだ)める。  古かったのが嘘みたいにピカピカで頑丈な椅子に座る。  あたたかいパンは大きくて、外はサクサクで中がふわふわだった。  出来立てで、バターを塗っただけで美味しくなった。 「ねー、しーちゃん!」 「なんだい?」 「あたし今日お出かけしたい!」 「んー、どこか行きたいところはある?」 「海行きたい! すっごく綺麗な海!」 「海……ああ、ちょうどいいところがある。そこに行こうか」 「うん!」  すぐに準備がしたくてもぐもぐ食べ進めると、「無理せずに食べな」って言ってくれる。  喉を詰まらせたら大変だ。  ゆっくり味わわないと。しーちゃんが作るご飯は絶品だから。  しーちゃん 「ありがと。しーちゃん」 「? 急にどうしたんだい、クロちゃん?」 「えへへ。なんでもなーい」 「……ふふ、どういたしまして」  だいすき 「んぅ……」  いつの間にか眠ってしまったらしい。  泣き疲れて寝ちゃうなんて、昔のようで懐かしい。  本当に幸せな夢を見た。そう確信できる。  顔を上げると、ほら。やっぱり、いた。  大好きな悪魔(ヒト)の顔が。 「あ、あぁ……うっ」  顔を見た途端、また目が熱くなってしまう。  もう、目が熱くてたまらない。 「おーい、まだ泣き足りないのか? 流石にこのままでは脱水状態になってしまうよ?」 「うっ、ううん……違うの」  嗚咽混じりながらも、これは言葉にしないといけない。 「っ……夢じゃないんだって、……本当に……しーちゃん、なんだって……嬉しくて、嬉しくて……つい……」  何度も夢の中で、しーちゃんと一緒に過ごした。  辛く苦しい日々でも、幸せな夢は見れた。いつも、いつも、しーちゃんが会いにきてくれた。  例え死ぬ事になったとしても、永遠に幸せな夢の中で過ごせるなら、それでも構わないって思っていた。  でも。 「……全く、クロちゃんは泣き虫だな」  そう言ってしーちゃんは、ハンカチをどこからともなく出現させて、涙で濡れた顔を拭いていく。  しーちゃんは、今、目の前にいる。 「っんもぅ~。なんか、からかわれてるみたいなんだけどぉ……」 「ははは」  そうして笑い合う。昔に戻ったようで、お互いに嬉しくなる。  夢じゃない。幻なんかじゃない。 「……しーちゃん」 「ん?」 「また一緒にいられて、良かった」  手を伸ばして抱き締めると、しーちゃんはそれに応えるように抱きしめ返してくれる。  暖かくて、大きな呼吸を感じた。 「うん。私も、幸せだよ」  そうして、二人で抱きしめ合って、また眠った。
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