第1話「光と影のアナウンサー」

9/43
前へ
/44ページ
次へ
「影山さんお疲れ様でした!」 「お疲れ様でした」 「さすが影山さん!」  スタッフが彼のもとに集まる。水のペットボトルを飲む彼に、ひなたも近づいた。 「影山さん……お疲れ様でした」 「なんとかなりましたね、朝倉さん!」 「は、はい……」  ひなたは彼が何者なのか分からなかった。営業部の先輩でありながら、堂々とステージに立って場を盛り上げている。 「アナウンサー、みたいでした」  ふと、その言葉が口を衝いた。影山は優しく微笑み返す。 「今日影山さんいなかったらどうなることかと思いましたよー!」  スタッフが一人彼に話しかけた。 「さっすが、『カゲアナ』ですね」 「……カゲアナ?」  聞き馴れない言葉にひなたは聞き返した。リュックの緑の冊子をめくる。 「カゲアナは営業用語ではありませんよ」 「違うんですか、影山さん?」 「テレビには出ないけれど、知る人ぞ知る影のアナウンサー。皆はそれを『カゲアナ』と呼ぶんです」  影山は彼女に深々と礼をする。 「さっきの『最敬礼』返しです」 「い、いや! あれはそういうわけじゃ!」 「改めまして、影山満。営業部員であり、マンカイ放送のカゲアナです」
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加