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『マンカイ放送主催・「知と美の世界展」。5月15日から県立ホールで開催』
ほたるは、一瞬春の嵐に見舞われた気がした。気のせいか、前髪が靡く。
(なにこの発声!? 滑らかな読み、主張しすぎない声量……)
『知られざる世界の扉が、今開かれる』
(行ってみたい! 知られざる世界の扉を開いてもらいたい!)
完全に彼の声にハートを掴まれたようである。
「オッケー、完璧! 頂きましたー!」
『ありがとうございます。出ます』
「光田さん、すごいですね……」
「ええ、本当に。私も勉強させてもらってる」
「さすが空野アナウンサーです……」
「ん?」
「え?」
「え、今の空野さんじゃないよ?」
ほたるの頭上に"?"が浮かぶ。
「あ、もしかしてフリーのナレーターさんですか?」
「んー、フリーって言うかね……」
「お疲れさまでした」
ドアを開けると、長身の男性が姿を現す。自分より少し年上のようだが、爽やかな出で立ちのジェントルマンだ。
「お、お疲れ様です!」
「ん? ああ、お疲れ様です。あなたが、岩戸アナウンサーですか?」
「はい! 岩戸ほたると申します!」
「はじめまして。営業部の影山と申します。よろしくお願いします」
「よろしくお願いいたします! 営業部の……え!?」
眼前の影山に、ほたるは目を丸めた。
「え、営業の方なんですか……?」
「はい」
「今の、あの、ナレーションの方ですよね?」
「『知と美の世界展』ですか? はい、私ですが」
彼の持つ原稿は、確かに先ほど耳にしていた内容と同じである。
「よっす、影山!」
「光田が指導係とか悪い夢だろ」
「なんだとぉ!? 私だってちゃんと指導できますぅ!」
「『八ヶ岳《やつがたけ》』を『はちがたけ』と読んだ奴が?」
「なっ……」
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