第1話「光と影のアナウンサー」

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『マンカイ放送主催・「知と美の世界展」。5月15日から県立ホールで開催』  ほたるは、一瞬春の嵐に見舞われた気がした。気のせいか、前髪が靡く。 (なにこの発声!? 滑らかな読み、主張しすぎない声量……) 『知られざる世界の扉が、今開かれる』 (行ってみたい! 知られざる世界の扉を開いてもらいたい!)  完全に彼の声にハートを掴まれたようである。 「オッケー、完璧! 頂きましたー!」 『ありがとうございます。出ます』 「光田さん、すごいですね……」 「ええ、本当に。私も勉強させてもらってる」 「さすが空野アナウンサーです……」 「ん?」 「え?」 「え、今の空野さんじゃないよ?」  ほたるの頭上に"?"が浮かぶ。 「あ、もしかしてフリーのナレーターさんですか?」 「んー、フリーって言うかね……」 「お疲れさまでした」  ドアを開けると、長身の男性が姿を現す。自分より少し年上のようだが、爽やかな出で立ちのジェントルマンだ。 「お、お疲れ様です!」 「ん? ああ、お疲れ様です。あなたが、岩戸アナウンサーですか?」 「はい! 岩戸ほたると申します!」 「はじめまして。営業部の影山と申します。よろしくお願いします」 「よろしくお願いいたします! 営業部の……え!?」  眼前の影山に、ほたるは目を丸めた。 「え、営業の方なんですか……?」 「はい」 「今の、あの、ナレーションの方ですよね?」 「『知と美の世界展』ですか? はい、私ですが」  彼の持つ原稿は、確かに先ほど耳にしていた内容と同じである。 「よっす、影山!」 「光田が指導係とか悪い夢だろ」 「なんだとぉ!? 私だってちゃんと指導できますぅ!」 「『八ヶ岳《やつがたけ》』を『はちがたけ』と読んだ奴が?」 「なっ……」
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