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「やっぱり朝倉ちゃん、可愛いだもん! 私の目に狂いはなかった!」
「じゃあ、岩戸ほたると同じ選考受けてたんだ?」
周りの盛り上がりに反比例して、自分の温度は下がっていく。
「……受けていたというか、同じスクールでした」
「マジ!? それで同じ会社に!?」
「そう、ですけど……」
「えぇ、じゃあバチバチなんじゃ?」
「違います!」
自分でも驚くくらいの大声が出た。
「違い、ます……」
周りは一向に気にしていない。それどころか笑いになっている。そもそも、居酒屋の喧騒で声を大きくしようが誰も何も言わない。文脈からも、イジりに反応した初々しい後輩として扱われていることだろう。
ひなたは安堵しつつ、どこか苦々しさを覚えた。流し込んだ酒によるものなのかもしれないが。ふと、影山から視線を感じた気がした。
「お待たせー!」
「あっ、星野さん!」
1人の老人が、元気よく手を挙げて近づいてくる。赤い野球帽からはみ出る白髪が目に付く。編成部の星野亘。既に定年を迎え、契約社員として再雇用された。営業部の面々が出迎える。
「星野さん来てくれてありがとうございます!」
「いやーしかし良かったのかい? 営業の飲み会だろ?」
「1人今日体調崩しちゃって、逆に助かりました。それに、星野さんと飲むと楽しいですもん!」
「じゃあ、遠慮なく」
小上がりの真ん中に座り、煙草を取り出す。ひなたに目を遣ると、彼は不敵な笑みを浮かべた。
「若い奴との飲みは、何よりの大好物だ」
「は、はぁ……」
時間が進むにつれて、それぞれが塊を作り会話を進める。星野は先ほどから下世話な話で一部の男性社員らと笑い合っている。他にも人生相談、会社の愚痴、ペットのアドバイスと様々だ。
いつしか、ひなたは孤立してしまっていた。皆、一様に会話への熱が入り、加われる余地はなさそうである。1人、静かに酒を飲む。
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