第1話「光と影のアナウンサー」

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「……あ、影山さん」  気づくと影山は自分の隣に腰を下ろしていた。見ていた限り、かなりの量を飲んでいたと思われるが、全く様子は変わっていない。恐らく酒には強いのであろう。 「部長のあだ名って知ってます?」 「あだ名、ですか?」 「『まねき猫田』」 「まねき……あ、招き猫?」  影山が指を差す。その先では、猫田が社員を1人ずつ手招きして声をかけている。 「招き猫は、利益と幸運を招き入れる。営業部長にぴったりでしょ」 「確かに、縁起は良さそうですね」 「実際、ここぞの勝負時は、験担ぎで部長に手招きしてもらうんです」 「えぇ?」 「大口の契約が決まったり、結婚したり。効果は抜群ですよ」 「ちょっと、なんですかそれ!」 「笑った」 「はい……?」  影山の言葉で、ひなたは自分の口角が上がっていることに気付いた。 「初めて見た。朝倉さんの笑っているところ」  彼女はどうしたらいいのか分からなかった。だが、不思議と悪い気はしない。その時、影山が声を上げた。 「猫田部長」 「うん?」 「せっかくなんで、朝倉さんに『招いて』もらっていいですか」 「わ、私にですか!?」  猫田は大きく頷いた。既に顔が真っ赤である。 「もちろんだとも! さぁ、朝倉さんいらっしゃい!」 「は、はい!」 「部長、そこは手招きしないんですね!」 「「「ハハハハ!!」」」 「ここからが本番なんだよ!」  ひなたは猫田の前に正座し、彼の目をじっと眺める。 「……はい! はい!」  猫田は掛け声に合わせて、ひなたの前で大きく右腕を上下に振る。周囲から拍手が沸き起こる。 「これで大丈夫だ! 朝倉くんには、必ずや福が訪れることでしょう!」 「あ、ありがとうございます!」  振り向くと、影山がこちらに向かってグラスを軽く掲げている。  ひなたは、今度は自分の意思で笑って見せた。
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