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ひなたのアナウンサー試験は失敗に終わった。あのカメラテストで落選し、他の放送局も鳴かず飛ばずで全滅。希望は見事に打ち砕かれていた。
そんな状態では、就活自体のモチベーションさえ下がってしまうのも不思議ではない。「もう1年」という選択もあったのだろうが、直感で長続きしないと自分の中で結論付けた。結局、滑り止めで合格していた同じ放送局の総合職に入社を決める。それだけに、見るものすべてがくぐもって見えた。
「今日まで研修、お疲れさまでした。これから各部署にご案内します」
入社式から2週間が経った今でも気持ちが晴れない。人事に連れられ、営業のフロアに行くと、皆立ち上がって迎えてくれた。6人分のデスク島に、二つ空席が連なっている。恐らく、片やここにいないもう1人と、片や自分の席なのだろう。
「朝倉さん、今日から宜しくね」
部長の猫田《ねこだ》が紳士的な笑顔で話しかける。
「……宜しくお願いします」
「まるでアナウンサーみたいな顔立ちだね」
悪気はないのだ。ただその一言が、ぐさりとひなたに突き刺さる。自己紹介を終えると、フロアの各先輩を順に紹介され、自身の席に座った。
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