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聞けば、空野は影山たちと反対方向から移動していたが、その道中で事故が発生し、渋滞してしまっているという。既に30分が経つが、全く車が動いていない。
「ど、どうするんですか!? 影山さん!」
思わず、応援に来ている側の彼に尋ねる。
「……もしかすると、そのまま事故のリポート取材に入る可能性はありますよね」
「じゃあ、空野さんなしでやるしかないか……」
「そんな……!?」
ひなたの顔に冷や汗がじんわりと浮かぶ。既にステージの周りには、空野の登場を心待ちにしている姿が見える。マスコットがいるとはいえ、それだけでは持たないだろう。
配属初日早々に、結構なトラブルに立ち会ったものである。
「中止……中止するしか、ないんじゃないですか……?」
少し躊躇したが、ひなたはそう言った。スタッフも困った表情である。
「いやいやそれは! これだけ来ていただいているし……」
「で、でも……空野さんが来ないなら、誠心誠意、謝るしか……」
自身ではどうにもできない事態に、彼女は翻弄されていた。当然ひなたも本意ではない。ただ、この状況を突破できる解決策を見いだせない以上、頭を下げるしかないと考えていた。どうにもならないものは仕方ない。一般の社員である以上、そういう立場なのだ。それが社会人というものだと自分に言い聞かせるのだった。
(私が……私が、アナウンサーなら……)
「すみません、台本あります?」
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