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吉村彩奈side
私には超能力がある。
なんの前触れもなくある日突然能力に目覚めた私は、同時に、能力が使えるようになった事実とその使用方法を直感的に理解した。
どんな能力かというと、他人の身体に自分の意識を入れ、乗っ取る能力だ。
創作なんかではよく見るようなありきたりな能力だ。地味だし没個性。だけどいざ自分が使えるようになってみると、ワクワクしかしなかった。
なんの取り柄もないこんな陰キャ女子高生が、地味で没個性とはいえ超能力者だなんて。私は早速能力を使ってみることにした。
最初に身体を乗っ取ったのはクラスメイトの吉村彩奈さん。
いつも日焼け対策のベージュのカーディガンを着て、校則ギリギリを攻めたような短いスカートを穿き、薄いメイクを施した顔を派手なイヤリングでより一層飾っている。
私とは正反対の、明るくて可愛いクラスの人気者女子だ。
別に羨ましかったわけではない。私は私だ。ただ、どうせ乗っ取るなら自分から一番かけ離れた人になってみようと、そう思っただけだ。
吉村さんの身体を乗っ取った私はその日、吉村さんとして過ごした。いろんな人に声をかけられ、遊びに誘われ、まさに人気者という感じの一日を堪能した。大変身。例えるならまるでシンデレラの魔法のよう。
ちなみに私の身体の方はいつもと同じように、普通に目立たず生活していた。私が吉村さんの中に入っている間、私の身体には誰の意識が代わりに入っていたのかは分からないが(もしかしたら吉村さんだろうか)、私の身体であれば誰でもあんな冴えない表情になってしまうらしい。残念なことだ。
まぁ、それはともかく。
私はその後も数人の身体を乗っ取って生活してみたが、最初に経験した吉村さんの身体が忘れられず、その後何度も乗っ取った。
正直、吉村さんの身体の中にいることは快感としか言いようがなかった。
何もしなくても注目を浴び、皆が私におもねる環境。自分の意見が全体の意見になっていく感覚。
たとえば、文化祭の出し物決めの時。また体育大会の種目決めの時。私の一言で、カースト上位の同級生たちが右往左往している。時には後ろの端の席で縮こまっている私に意見を求めたりもした。
吉村さんの身体で意見を求めれば、皆はどんな隠キャの意見だろうと熱心に耳を傾けた。私は、困ったようにボソボソと意見を口にしていた。
本当にゾクゾクした。同時に、これ以上はダメだと思った。
こんな快感を経験し続けていたら、いつか本当の自分に戻れなくなってしまう。本当の、一つも見るところのない日陰者の自分に。
こっちのキラキラした方の自分を自分だと思い込んでしまいそうになる。
だけど、分かっていてもやめられなかった。
あと一回、あと一回と、私は吉村さんの身体を乗っ取ることを繰り返した。
ちなみに乗っ取りには制限時間があり、また一度の乗っ取りごとにインターバルもあるようだったが、私はその制限一杯まで、まるで中毒患者のように何度も吉村さんに成りすまし、そのたび快感を得ていた。
またそのような歪な癖を植え付けられた原因は、ただ単に吉村さんがキラキラした女子だからというだけではなかった。
私には好きな人がいた。同じクラスの、藤之江大輔くんだ。
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