伊藤都子side

2/3
前へ
/6ページ
次へ
 吉村さんの身体を通して彼女の心が私の心に流れ込んでくることで、私はいろいろな事実を知った。  ここ最近起こっているこの不思議な現象は、吉村さんの超能力によって引き起こされていたこと。  はじめはただ「自分と正反対の人に」という気まぐれな気持ちで私の身体を乗っ取ったこと。  その後いろいろな人の身体を乗っ取ったが、最初に乗っ取った私としての生活が一番新鮮で忘れられず、何度も乗っ取るようになったこと。  そして、今では吉村さん自身の心と私の心との境界が曖昧になり、自分がこと。  確かに私自身も、自分が本当は吉村彩奈なんじゃないかと錯覚しそうになることが何度かあった。  吉村さんはその心理作用が行き過ぎて、本来の目的を忘れ、ついには自分自身まで見失ってしまったようだった。しかも、自分が伊藤都子であることで起こる矛盾のいくつかを都合良く補完までして。  最初は吉村さんと話し合おうかと思った。私が直接出張って「あなたは吉村彩奈なの」と説明すれば、彼女は自分を取り戻せたかもしれない。  でも私はそうしなかった。もし自分が吉村彩奈だと気付いたら、吉村さんはもう私と入れ替わってくれなくなる。なぜなら彼女は、私が藤之江くんが好きなことを知っているから。  私は、これからも藤之江くんと一緒にいたい。放課後デートもしたいし、手を繋いだり、抱き合ったり、キスもしたい。私は藤之江くんとの仮初の恋人関係を守るため、吉村さんを見捨てることに決めた。  その結果、吉村さんはおそらく伊藤都子として吉村彩奈を消すため、自分自身で命を絶ってしまった。  可哀想な吉村さん。  ……だけど、しょうがないでしょ? 勝手に入れ替わりを始めたのはあの女の方だ。私は巻き込まれただけ。そう、しょうがないのだ。しょうがない、しょうがない……
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

34人が本棚に入れています
本棚に追加