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忘れられない夜
あの日以降、薫の様子に変化はなく、魁斗はホッと胸を撫で下ろして授業に専念することができた。あれは薫の気まぐれだったのだと思った。
その日は薫の気分が乗らず、いつものように魁斗は無理強いはせず雑談をした。
「魁斗先生は……好きな人いる?」
年頃の男子生徒は恋の話が好きなものだ。魁斗は笑ってうーん、今はいないかなと答えた。薫くんは?と逆質問すると、薫はふふっと笑った。
「セックスの相手はいるけど……好きかどうかって訊かれると、特別好きって訳でもないかな」
あっさりとセックスという単語が薫の口から飛び出し、魁斗はドギマギした。
「身体の相性はいいけど。でもしつこくて」
魁斗は何と返したらいいのかわからなかった。
「ああ、しつこいっていうのはセックスのことじゃなくて……自分だけを見てほしいとか、自分だけのものになってくれとか?」
薫は椅子の背もたれに頭を乗せると、魁斗を見上げて笑った。
「そういうの、鬱陶しくて。俺は誰のものにもならないって言ってるんだけど」
魁斗先生は、そういう経験ない?と訊かれて、魁斗は首を横に振った。
「薫くんのほうが……俺なんかよりよっぽど経験豊富なんだな。進んでるなあって思うよ?」
「魁斗先生は奥手って感じするもんね」
薫は笑って言った。
「俺とハグしただけであんなにドキドキして……可愛いよね。まさか未経験とか?」
魁斗は苦笑してこう答えた。
「俺、29になるんだよ?さすがにそれはない。何人か付き合ったこともあるし……ああ、もちろん女性とだけど」
「じゃあ、男とは経験ないんだ?」
薫は嬉しそうにそう言った。
「普通に生きてたらまずないでしょ」
薫は真顔になって言った。
「普通ねぇ……魁斗先生の普通の定義って?」
「えっ?」
ドキッとして魁斗は薫の顔を見た。無自覚に薫を傷つけたと思った。
「男と女の間でしか恋愛やセックスが成り立たないとでも?それが魁斗先生の普通?」
薫が皮肉な笑いを浮かべて椅子から立ち上がった。
「そんな常識……俺が覆してやりたい。男同士だっていいんだって教えてあげたい」
「薫くん……悪かったよ。普通って言葉はよくなかった。撤回す……」
薫が唇を重ねて魁斗の言葉を遮った。背中に腕を回して抱きつきながら、魁斗の唇を優しく舌でなぞり、隙間から舌を差し入れた。
「ん……」
魁斗は目を閉じた。薫の舌が自分の舌を絡め取るのを感じた。不思議と抵抗を感じなかった。薫が唇を離してこう言った。
「俺……魁斗先生の初めてになりたいな。先生のこと気持ちよくしてあげられる自信、あるんだけどなあ……」
魁斗はドキッとした。
「でも下に母さんがいると……魁斗先生、落ち着かないでしょ?」
「そういう問題じゃ……」
「今度の金曜、父さんの会社のパーティーがあるんだ。母さんも一緒に行くから、夜遅くまで帰ってこない」
薫は笑った。
「先生の授業はいつもどおりにあるでしょ?二人きりになったら……気持ちよくしてあげる。忘れられない夜にしてあげる」
「……」
魁斗は拒絶も承諾もしなかった。
金曜日が来るまで、魁斗はそわそわと落ち着かなかった。薫がどこまで本気なのかわからなかった。金曜日になり、魁斗は秋津家に向かう前にシャワーを浴びた。その日は先方の都合で薫の前の生徒宅への訪問はキャンセルなっていた。シャワーを浴びながら自分は何を期待しているのだろうかという疑問も浮かんだが、汗ばむ季節になったしと自分に言い訳をして念入りに身体を洗った。
インターホンを鳴らすと薫が出迎えてくれた。今日は母さんいないからと言ってダイニングに通し、アイスティーを出してくれた。酷く喉が渇いていた魁斗は一気に飲み干した。薫はそんな魁斗を見てふふっと笑い、空いたグラスにアイスティーを注いだ。魁斗はまたゴクゴクと喉を鳴らして飲み干した。
「そろそろ部屋に行こうか……?」
薫は魁斗の手を取り吹き抜けの階段を上がった。部屋に入りドアを閉めると薫は奥のベッドに腰掛けた。魁斗は吸い寄せられるように薫の傍まで近づき、荷物を下ろして立ち尽くした。
「そのままでいて……?」
薫はそう囁くと魁斗のズボンのファスナーを下ろして下着をずらし、魁斗のものを唇でなぞった。身体をダイレクトに刺激された魁斗はすぐに硬くなった。
「可愛い……」
薫は嬉しそうな顔をして魁斗のベルトに手をかけると、下着ごとズボンを下ろした。
「魁斗先生……シャワー浴びてきてくれたの?いい匂いがする……」
そう言われて魁斗は顔を赤くした。薫は魁斗のそそり立ったものに片手を添えると、口に含んで唇で上下に刺激しながら舌を絡めた。
「ああ……」
魁斗はあまりの心地よさにため息のような声を洩らした。薫は根元をしごきながら、魁斗のそれに舌を絡めて舐め回した。湿った音が部屋に響いた。
「気持ちいい……?」
魁斗は頷いて薫の髪に両手で触れた。薫はまた魁斗を口に含むと、頭を動かして根元から先端にかけて唇で刺激した。
「うっ……ああっ……」
魁斗が堪らず声を上げた。
「イキそう……?」
囁くように薫が言った。
「ああっ……もう………」
根元をしごきながらなおも唇で刺激すると、魁斗はそのまま薫の口の中で果てた。魁斗から迸ったそれを薫は喉の奥にごくりと音を立てて流し込んだ。
「気持ちよかった……?」
舌で優しく舐めて魁斗のそれを綺麗にしてあげると、薫は囁いた。魁斗は黙って頷いた。
「今度は……一緒に気持ちよくなりたい」
薫は魁斗の手を引いてベッドに座らせると、服、脱いでと囁いた。魁斗は言われるままに服を脱いだ。
「魁斗先生は……俺の服、脱がせたい?」
魁斗は抑えきれずに薫を抱きしめると、ベッドに押し倒した。剥ぎ取るように薫の服を脱がせると首筋に顔を埋めた。いい匂いがした。
「俺も……さっきシャワー浴びたから……魁斗先生に抱かれるんだって考えながら……」
それを聞いた魁斗はカアッとなった。首筋に唇を押し当てると舌を這わせた。
「あんッ……」
薫が甘い声を上げて両腕を魁斗の首に絡めた。薫の肌の感触を確かめるように両手で身体を撫で上げた。
「ああっ……あん……」
少し高めの薫の喘ぎ声に魁斗は興奮した。薫は片手で魁斗の手を自分の硬くなったそれに導き握らせた。
「動かして……自分でするみたいに」
男との経験がなくぎこちない魁斗を薫は優しくリードした。魁斗は言われるままに薫のそれを握る手に力を込め、上下にしごいた。
「あんッ……いいッ……」
薫のそれを手で愛撫しながら鎖骨に舌を這わせ、胸や脇腹にキスをした。
「今度は……入口に、キスして……?」
薫の片脚を肩に抱え上げ、言われたとおりに入口にキスをした。
「ああッ……あん……」
舌先をちろちろと這わせると、薫は気持ちいいと言って喘いだ。
「手がお留守になってる……また握って、動かして……?」
入口を攻めるのに夢中になり、薫のそれから手を離していた魁斗は、再び握りしめて上下にしごきながら入口も同時に愛撫した。
「ああっ……いいっ……気持ちいい……イッちゃう……」
薫はそう喘ぐと魁斗の手の中で果てた。ティッシュで自分の掌と薫を拭うと、魁斗はそのあとどうしたらいいのかわからず、困ったような顔をして薫を見つめた。
「可愛い……」
掌で魁斗の頬を撫でると、薫は起き上がって魁斗の上になり跨った。
「一緒に気持ちよくなろ……?」
魁斗の硬くなったそれに手を添えて、自分の入口に導き、ゆっくりと腰を沈めた。
「あッ……ああッ……」
喘ぎながら薫は腰を振った。薫の内壁がねっとりと自分のそれに絡みつき締め付けられ、魁斗は今まで感じたことのない快感に襲われた。薫が腰を振るたび薫の内壁と自分のものが擦れ、堪らなく心地よかった。
「うッ……いいッ……」
魁斗も腰を下から突き上げた。
「俺も……いいッ……魁斗先生……握って……?」
薫のそれを再び握りしめて上下にしごくと、薫の中が窄まりきつく締め付けてきた。
「ああッ……魁斗先生……気持ちいいよお……」
泣きそうな声で薫がそう言った。その声に興奮して魁斗は激しく腰を突き上げた。
「いいッ……いいッ……イクッ……」
薫が先に魁斗の手の中で果てた。薫の中がきゅっと窄まり、魁斗も堪え切れずに果てた。どくどくと魁斗のそれが脈打つのを薫は感じた。
「……っあ……」
互いに荒い呼吸をした。繋がったまま薫は言った。
「このまま……逆になれる……?」
薫の身体を自分の下にすると、薫がキスをしてきた。んっ……と声を洩らしながら、二人は夢中でキスをした。互いの身体がまたみなぎるのを感じ合い、興奮して魁斗は腰を動かした。
「んッ……あッ……ああッ……」
魁斗のそれが奥まで届き、薫の敏感な部分に触れた。
「ああッ……いいッ……握って……?」
魁斗は腰を振りながら薫の再び硬くなったそれに手を伸ばし上下にしごいた。
「魁斗先生ッ……気持ちいい……いいよお……」
両腕を魁斗の背中に回して、また泣きそうな声を立てて薫がよがった。魁斗は薫の声と表情に興奮し、一層激しく腰を前後に振った。
「ッ……イクッ」
今度は魁斗が先に薫の中で果てた。どくんどくんと脈打つのを感じて、薫も興奮した。
「魁斗先生ッ……俺もイッちゃうッ……」
魁斗の手の中で薫も果てた。
ベッドの中で裸で抱きしめ合った。時計を見ると20時半だった。
「大丈夫……まだ帰って来ないから」
薫がそう言って笑った。
「気持ちよかった……?」
魁斗は黙って頷いた。
「そう。ならよかった」
薫は満足そうに笑って魁斗の頬に手を触れた。
「俺が……魁斗先生の初めてか……なんか嬉しい」
「薫くんは……俺で何人目?」
「さあ……わかんない」
そっかと魁斗は言った。こんなことを訊いても何もならないと思った。
「何人目だったら良かった?」
意外な質問をされて魁斗は言葉に詰まった。
「ごめんね、何人目かわかんないなんて、アバズレ女みたいで」
薫は仰向けになると目を閉じた。
「合意してばっかりでもなかったし……そんな相手までカウントしても意味ないでしょ?」
魁斗は言葉を失った。
「ああ、気にしないで?レイプなんて事故みたいなもんだから」
薫は笑って言った。
「こんな見た目だから、そういうこともあるし。いちいち引きずってたら……生きてけないよ」
「ごめん。嫌なこと思い出させたね」
魁斗はそう言って薫を抱き寄せた。
「魁斗先生は……優しいね」
薫は魁斗にキスして言った。
「こんなこと……譲にも……ああ、俺の今のパートナーだけど……彼にも話したことない。話したらきっとキレまくるだろうな」
そう言って薫は笑った。彼、真っ直ぐだからと。しばらく沈黙が続き、薫が身体を起こした。
「シャワー浴びて帰る?」
「いや……さすがにそれは……」
「そう?……父さんの会社関連のパーティーって、結構よくあるから……魁斗先生が嫌じゃなかったら、またしよ?」
薫は笑って耳元で囁いた。
「魁斗先生とするの、すごくよかったから……」
魁斗は顔を赤くした。
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