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俺の気まぐれ猫
年が明け魁斗は湯島天神まで薫の合格祈願に行った。なんとか無事に合格してほしかった。入試が終われば自分の役目も終わり、薫と秋津家で会う機会もなくなるが、それでもよかった。なんとしてでも第一志望の大学に行ってほしい。ただそれだけだった。
1月に共通テストが実施され、翌日に自己採点をした。採点結果は学校で取りまとめ、返ってきたのは10日後だった。得点率は92%だった。上出来だった。第一志望は変えずにそのまま出願することになった。
第一志望の入試前夜、薫は魁斗に電話をかけた。
大丈夫。期末テストくらいの気持ちで受けておいでと魁斗は言った。併願で受けた大学も合格してたし、それに薫くんなら大丈夫、魁斗はそう言った。
「うん。魁斗先生の声聴いたら、なんか安心した」
「薫くんでも緊張することなんてあるんだな」
魁斗が笑ってそう言うと、猫だって緊張するのと言って薫は笑った。
「そりゃ失礼。てっきり俺の気まぐれ猫はネバーナーバスなのかと思ってたよ」
「俺の気まぐれ猫……か。うん、悪くないねそのフレーズ」
薫は満足げな顔をして目を閉じた。
「肩の力を抜いて、受けてきて?」
「ありがとう。……ねぇ魁斗先生?」
「うん?」
「入試終わったら……またそっちに遊びに行ってもいい?」
「合格発表、待たなくていいの?」
「待ち切れない……早く、魁斗先生のものになりたい。俺だけのものにしたいって言ってくれたけど……あれからまだ、一度もしてないでしょ?」
「そうだった」
「俺がもう嫌だって言うくらい、してくれるんでしょ?」
薫が笑ってそう言った。電話の向こうで魁斗が赤面している様子が伝わってきた。
「じゃあ明日、頑張ってくるね」
そう言って薫は電話を切った。
入試が終わり合格発表を待たず、薫は翌週の土曜日に魁斗の部屋に行った。魁斗の秋津家への訪問の契約は既に終了していた。
「合格してたら、魁斗先生を食事に誘いたいって、父さんと母さんが言ってた」
「そんな……気を遣わなくても」
コーヒーを淹れながら、魁斗は言った。
「魁斗先生には三年もお世話になったし。俺もお礼したいし」
出されたコーヒーを飲みながら、薫はそう言った。
「魁斗先生……何かほしいものある?父さんに伝えておくよ。プレゼントしたい」
「俺のほしいものは……」
魁斗はうつむいて呟いた。
「薫くんだけだ」
薫は笑った。綺麗な笑顔だった。
「抱いてくれるの……?」
立ち上がって魁斗に近づくと、手を引いてベッドに連れて行った。
二人は並んでベッドに腰掛け、キスをした。唇を重ねては離し、また重ねた。何度も繰り返した。魁斗は薫をベッドに横たわらせると、覆い被さるように自分も横になった。
「薫くん……」
魁斗がそう呼ぶと、薫は人差し指で魁斗の唇に触れてこう言った。
「もう……先生と生徒じゃない。薫って呼んで?俺も……魁斗って呼びたい……」
薫にそう言われ、魁斗は呼んだ。
「薫……」
「ああ……やっと……魁斗だけのものになれる……」
夢みるような顔をして薫はそう囁くと、魁斗の背中に両腕を回して抱き寄せた。
「薫……俺だけのものになって……」
魁斗はそう言いながら薫の服の中に手を入れ身体をまさぐった。
「ああん……」
久しぶりに感じる魁斗の重みと手の感触に、薫はそれだけで興奮した。魁斗も薫の甘い声に気持ちが昂り、はやる気持ちを抑えながら薫の服を脱がせて自分も服を脱ぎ捨てると、裸で抱き合った。素肌が触れ合い、それだけで心地よかった。魁斗は薫の首筋に顔を埋めて唇を押し当て、舌を這わせた。
「ああッ……ああ……」
薫がまた甘い声を上げた。鎖骨に舌を這わせ、その下の柔らかい部分を吸った。薫の白い肌に小さな赤紫の痣ができた。何ヶ所も痕を残しながら、薫の硬くなったそれに手を伸ばすと、握って上下にしごいた。
「んっ……ああんッ……」
胸から脇腹にかけて優しく口づけると、薫の片脚を肩に抱え上げ入口にそっとキスをした。
「あッ……ああッ……」
薫のそれへの愛撫を続けながら、入口にちろちろと舌を這わせ、唇で刺激した。
「あんッ……ダメ……」
「ダメじゃないでしょ……薫、これ気持ちいいでしょ……?」
魁斗はそう囁くと、片手で入口を押し拡げるようにして舌先を中に入れた。
「ああ……ダメ……ヘンになりそう……」
薫が首を振って魁斗の髪に触れた。魁斗は舌を抜くと自分の中指と薬指を舐めて、ほぐした入口にそっと差し入れた。
「あんッ……やッ……ん……」
二本の指をゆっくりと根元まで収めると、押し拡げるようにして中をまさぐった。薫は中で魁斗の指が蠢くのを感じて興奮した。
「ああッ……魁斗……」
「気持ちいい……?」
甘く囁きながら、魁斗は薫を握る手に力を込めて、上下にしごいた。
「んッ……ああんッ……」
二ヶ所を同時に愛撫され、薫は興奮と気持ち良さでどうにかなりそうだった。
「こんなの……いつ覚えたの……」
荒い呼吸をしながら薫はそう訊いた。
「離れてる間……ずっと考えてたんだ……どうしたら薫が気持ちいいかって……」
「んッ……ズルい……でも……気持ちいい……」
指をゆっくり抜くと、太腿の柔らかい部分に痕を残しながら執拗に舌を這わせた。焦らすようにそうしていると、薫が我慢できずにこう言った。
「ああッ……お願い……早く来て……」
魁斗は薫の訴えを無視してまた入口にキスをして、唇と舌で愛撫した。入口を攻めながら、薫のそれを激しく上下にしごいた。
「あッ、あッ、ダメ、イクッ……」
魁斗の手の中で薫は上り詰めた。前戯だけでこんなに興奮し乱れたのは初めての経験だった。
「イジワル……」
「でも……気持ちいいでしょ……?もっと良くしてあげる……」
魁斗はそう言うと薫の身体をうつ伏せにさせて、うなじに口づけた。甘酸っぱいいい匂いがした。
「この匂いも、薫の肌も声も……全部、俺だけのものにしていいの……?」
「んッ……」
「ねぇ、答えて?俺だけのものにしていい……?」
背骨に沿って舌を這わせながら、魁斗はそう訊いた。
「んッ……全部、俺の全部、魁斗だけのものにして……」
薫の腰を掴んで四つん這いにさせると、また入口にキスをした。ちろちろと舌を這わせながら、再び硬くなった薫のそれに手を伸ばし、上下にしごいた。
「ああんッ……気持ちいいよお……」
薫が泣きそうな声を上げてよがった。魁斗は入口に舌を差し入れた。
「あッ、ああッ……またイッちゃうッ……」
薫は魁斗の手の中で果てた。
「もう……いいでしょ……早く……」
薫は言った。魁斗は耳元で囁いた。
「欲しかったら……そう言って?」
薫はカアッと頬を染めた。
「俺のものなんでしょ……」
「早く……挿れて……」
小さな声で恥ずかしそうに薫がそう言うと、魁斗は満足そうな顔をして薫にキスした。
「俺も早く、薫の中に入りたかったよ……」
薫の腰を抱え込むようにして、魁斗は自分のそそり立ったものを入口に押し当てると、腰を進めた。
「あッ……あああんッ……」
ゆっくりと時間をかけて根元まで収めると、腰を前後に振った。その度に魁斗のそれが薫の敏感な部分に触れた。また魁斗の手が薫自身に伸びてきて上下にしごかれ、薫は気持ち良さでどうにかなりそうだった。
「いいッ……ああッ……気持ちいい……いいよお……」
背後から魁斗に貫かれながら、薫は首を振ってよがった。両手でシーツを握りしめて、気持ちいいと何度も喘いだ。自分を握る魁斗の手が強まり、激しくしごかれ我慢できそうになかった。
「いいッ……いいッ……イクッ……」
魁斗の手の中でまた果てた。薫の中がきゅっと窄まり、魁斗も堪え切れずに薫の中で果てた。どくどくと魁斗のそれが脈打つのを感じて、薫はため息のような声を洩らした。魁斗は薫から一旦離れて自分の下にすると、キスをした。んっ……と互いに声を洩らしながら舌を絡め合った。魁斗は薫の首筋に顔を埋めた。
「ああんッ」
薫の身体は何度も上り詰めて敏感になっていった。魁斗の指先や唇、舌が肌に触れるたび、身体がびくんびくんと反応した。こんなことは初めてだった。キスだけでもう我慢できなくなるほどだった。
「俺が欲しい?」
そう訊かれ、薫は頷いた。薫の両脚を抱え上げると、魁斗は入口に自分自身を押し当てた。
「ああッ……ああんッ……」
腰を大きく前後に振りながら、薫のそれを握りしめ上下にしごいた。薫の内壁が自分のものと擦れて、堪らなく心地よかった。
「薫……俺だけだって言って……」
「ああッ……魁斗だけ……魁斗だけだからッ……」
二人は同時に果てた。
満たされ尽くした二人はベッドの中できつく抱きしめ合った。
「今日の魁斗……いつもと違った……」
薫はそう言って魁斗の胸に顔を埋めた。
「離れてる間、妄想しまくったからね」
「俺とのセックス?」
「うん……薫は?」
「早く魁斗に抱かれたくて……我慢できなくて」
自分でしちゃったと薫は恥ずかしそうに言った。
「恥ずかしがることない。17の男の子、それくらいするでしょ?」
「魁斗は……した?俺のこと考えながら……した?」
「しまくった。29にもなって、俺こそ恥ずかしいな」
魁斗はそう言って笑った。
「またこうして会えるようになったし……これからはもう、そんな必要なくなったね」
薫はそう言って魁斗にキスした。
「俺……やっと魁斗だけのものになれて、幸せ……」
「俺も。薫が俺だけのものになってくれて……嬉しい」
二人は見つめ合った。
「合格したら……魁斗にいちばんに報告したい」
「うん。きっと大丈夫。湯島天神さんによーくお願いして来たからね」
「俺のために……行ってくれたの?」
「うん。正月にね」
「ありがとう……」
「いい報告、待ってる」
魁斗が微笑んでそう言った。
第一志望の大学の合格発表はWEBで行われた。10時ちょうどに自室からアクセスして確認すると、無事に合格していた。母親の綾乃より先に魁斗に電話を入れた。
「受かってた!」
薫が嬉しそうにそう伝えると、魁斗も我が事のように喜んでくれた。
「よかったね!よかった……!ずっと頑張ったもんな。おめでとう!」
「ありがとう……魁斗のおかげ」
「いや、俺はほんのちょっと手助けしただけ。薫の実力だよ。ご両親にも早く知らせてあげて?」
「うん。また連絡する」
そう言って電話を切った。綾乃に伝えに行き、綾乃が父親の信五に連絡をしてくれた。
「小早川先生を、お食事にお招きしないと」
「うん」
「長くお世話になったものね。薫は本当に小早川先生のことが大好きなのね」
「うん……」
薫は幸せそうに笑った。
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