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「先に逃げてろ、俺今立ち眩みで何も見えなくて……」
目の見えなくなった原因が立ち眩みなんかではないことはレオにとっては明白だったが、とても云い出すことはできなかった。
ふとアルビの手の中を見て、そこに見覚えのある色合いの青い薔薇があることに気づく。
「おやおや、子鼠が二匹も入り込んでいるとはね。」
やや高い枯れた声のする方を見ると、黒衣の老人が温室の入口に立っていた。
肩にかかるぐらいに伸びた銀髪と神経質そうな薄青の瞳で、男なのか女なのか測りかねる風貌。
この人物が魔女屋敷の主人であることは疑いようのない尊大な態度だった。
「花盗人なら赦されるとでも思ったかい? そうだねえ、その青薔薇を僕に捧げると云うのなら考えてやらないでもないけれど……」
「青薔薇……?」
怪訝な顔のアルビを隠すように立ちはだかり、レオは震えながらも声を上げた。
「あ、あの! この薔薇はアルビの目が見えなくなったことと関係があるんですか?」
「ああ、その薔薇は棘で刺した者の目の色を吸い取るんだ。色とりどりの美しい薔薇ができるなんて素敵だろう? 視力も全て奪い取ってしまうから表には出せないがね、盗人が受ける報いとしてはふさわしいじゃないか。」
ぞっとするような笑みを浮かべて残酷なことを云う相手に身が竦みそうになるが、大事な片割れを捨て置けるわけがない。
「お願いします、アルビの目を元に戻してください! 花を盗んだことも謝ります、僕なんでもしますから、どうか赦してください、」
「やめろレオ、余計なこと云うな! こいつは勝手についてきただけで関係ないんだ、レオに手を出したら承知しないからな!」
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