第七話 マイノリティ

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沈黙を破ったその言葉にムッとした。いつもの嫌みな如月が顔を覗かせたような気がしたからだ。 「逃げじゃない!」 反射的に答えた。 「逃げじゃないんだ……。逃げじゃ……」 じゃあ何か……? 言葉に詰まった。何だろう、気が付けばその答えを今、その時探している自分がいた。 「俺は、俺自身を変える! その為に必要なんだ! そう、全てを捨てる!」 今度はすぐに如月が反応した。 「全てを捨てる? そんな必要あるか?」 如月は手元のお猪口を空けると大きく息を吸い、そして喋った。 「クソがつくほどに生真面目で、暑苦しいほどに情熱的で、嫌みなほどに合理的な、そんなかつてのお前の良いところ、それも捨てるって言うのか?」 いや、捨てるは違ったか、しかし、耳を疑った。確かにその時、コイツ、如月は「お前の良いところ」と、そう言ってくれた。それが何だか嬉しかった。なぜだろう、目の前のお猪口が歪んで見える……。
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