第四話 飲みニケーション

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 そんな中でも、唯一気軽に誘える相手がいる。部下の如月君だ。如月君とは彼が入社して以来の付き合いだ。  アイツは良い。私が声を掛けるとキラキラした目でどこにでも付いてきてくれる最後のひとりだ。汚い飲み屋もOK、カラオケもOK、スナックもOK、キャバクラもOK、何でもOK、そんな絶滅危惧種、昭和の超優秀人材だ。  対して、剛田君はどうだろうか。まあ、仕事はできるな。だが、ちょっとカタいと言うか、なんかとっつきにくいんだよな。オヤジギャグにも素で返答するような生真面目っぷりだ。まあ仕事のできる神楽さんが褒めるくらいだからな、正攻法でお仕事を頑張って欲しいものだ。  さてと、今日の如月君はどんな感じかな。さっきふらっと外回りから帰って来たところだ。これから見積書の押印を依頼しにやってくるだろう。そこがチャンスだな。 「林田部長、見積書を作成しました。ご確認をお願いします」 どれどれ、なるほど、よしよし。いつもながら少額だが、粒揃いの案件をかき集めてくる。神楽さんのハンコは、よし、押してあるな。そう、神楽さんは仕事ができるから、私の前に書類の確認を依頼しているのだ。細かいところは、まあいいか! 早く酒飲みたい! 「引き合いご苦労さん。ところで如月君、今夜空いてる」 「もちろんです!」 そうそう、この目だ。私が欲していたキラッキラの眼差しだ。 「飲みにでも行こうかな、と思ってるんだけど、良かったら如月君もどうだい?」 「はい! 喜んで!」 キター! 案件成立だ! おっと、そうだそうだ、見積書に押印しなきゃ。 「はい、じゃあこれ。これも案件成立すると良いな」 「『これも』ですか?」 「いやいや、何でもない。何時に出発できる?」 「今すぐ行けます」 「そうか。じゃあ十分後にエントランスに集合な」 「承知しました!」 よーしよし。今日は気分が良い。 「ところで、もう一人誘っても良いですか?」
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