第一話 ミステリアス

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第一話 ミステリアス

   七月十日(水) 奥村真里菜  私の名前は奥村真里菜。女、二十三歳、独身、残念ながら彼氏なし。でも、可愛いってよく言われる。そう、綺麗系よりは可愛い系。天然でおっちょこちょいで可愛い、そんな感じを目指してる。  あざとい? とんでもない、女はみんなそんなもんでしょう、と思っている。そんな感じを目指すけど、会社ではイメージとは違う、ガチのミスばっかり。男の人は優しく助けてくれるけど、女、特にお局様からの目線はヤバい……。  「ヤバい」なんて言うと事務職のお局様達にこっぴどく叱られる。「良いのか、悪いのかよく分からない、変な言葉を使うんじゃない」って……。そんなの、前後の文脈で判断して欲しい。コミュニケーションの基礎だと思うけど、大人はよく分からないなあ。  ここ斉甲商事に新卒入社して、やっと三ヶ月の試用期間が終わった。レベルの低い私には大変な下積み期間だった。友人たちと過ごした先月の誕生日も、仕事が辛くてあんまり楽しめなかった。  私の大学から上場企業に入社するのは難しかった。でも、やってのけた。最大手ではないにしても、業界では五本の指に入る上場企業の専門商社に入社できたのだ。私の学歴からしたら御の字だ。実際のところ、就職活動は思ったほど大変ではなかった。ニコニコして「御社が第一希望です、なぜなら……」「御社の扱う製品には昔から興味があって……」「御社の経営理念に惹かれて……」なんて嘘を並べ立てる。  そして、極めつけには最終面接で「皆様を含めて、御社の方々の人柄に惹かれました」なんて、語尾にハートマークをつける感じで発言すれば、男はイチコロだった。そう、男はイチコロ、入社後もそうだった。あの、如月先輩を除いては……。
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