第四話 飲みニケーション

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   七月二十九日(月) 剛田健介  仕事が分かってきた。あの優秀な神楽先輩も頑張りを褒めてくれる。「あとは更に効率的に業務を遂行できるように」と、そんな事を言っていた。俺はまだまだだな。でも、神楽先輩のようにデキるようになれば、きっと奥村さん、そう、真里菜たんも振り向いてくれる。  まあ、その前に、この目の前にいる如月に勝つ。打倒如月! 気合いと根性だ! 頑張ろう。  おっと、如月のヤツ、また神楽先輩に怒られている。何の書類だろうか。きっとあの沢山の付箋は修正指示だろうな。おまけに言葉遣いまで注意されて。新入社員かよ。入社四ヶ月の真里菜たんの方がずっと優秀だし、可愛いし……。ああ、可愛いなあ。愛おしい……。こっち向いてくれないかな……。 「剛田? 剛田?」 如月の声だった。 「おう、どうした?」 「今夜の予定は?」 「特にないけど?」 「今日、飲みに行かない?」 如月からの誘いとは珍しい。しかしサシ飲みか? さすがにそれは勘弁だ。 「他に誰か一緒か?」 「そうだね」 「誰?」 「それはこの後のお楽しみ! サプライズゲストだよ」 どういう事だ。「お楽しみとは」またよく分からない事を言う。 「剛田くんはさあ、一緒に飲みに行きたくない人とかいるのかなあ?」 これまた嫌な聞き方をする。情熱と気合いと根性、そして経営企画部で養った合理性で生きるこの俺にも苦手な人はいる。あの林田部長とか。なぜかあの部長とは馬が合わないのだ。いくら情熱的にぶつかっても肩透かしを食らう。 「いや、まあ、別にいないけど」 そう答えるしかないじゃないか。卑怯なヤツめ。 「よし決まり! それじゃあ十分後、いや八分後だな。下のエントランスに集合な!」 嫌な予感はしていた。
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