第四話 飲みニケーション

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 彼らに連れられて会社近くの海鮮居酒屋に入った。掘りごたつの個室、これは良い。  悔しいが、普段から飲み歩いている如月だ。良いセンスだ、と言わざるを得ない。悔しいついでに言うと、俺は日本酒が大好きだ。如月にそんな事話しただろうか。まだアイツの本性など知る由もなかった新人時代、研修の時に少し話したかもしれない。日本酒は好きすぎてついつい飲み過ぎてしまうと……。  そして、メニューを見てまた驚愕した。これは本当に飲み放題なのか。北から南まで、本当に全国の地酒が飲み放題だ。畜生! 悔しいが、店選びについて、如月のセンスは抜群だ。今度こっそりひとりで飲みに来よう。できれは真里菜たんを誘いたいが、さすがに会社から目と鼻の先となっては誰に目撃されるか分からない。しかし、この店選びのセンス、それは盗ませてもらうぞ如月。 「では、本日のスペシャルゲストの剛田くん、お好きな日本酒をどうぞ!」 なんだ。さっきから「くん」付けで気持ちが悪い。そもそも、何で如月がこの場を仕切ってるんだよ。それに最初から日本酒? とりあえずビールとか、普通、軽めの酒からいくだろう。 「せっかくの飲み放題、ビールで腹が膨れるのはもったいないですよ。ねえ、部長!」 「おー如月君はやっぱり分かっているなあ。」 「もう今日は全国の地酒、制覇しちゃいましょう!」 「いいぞいいぞ! これで家庭のストレスもどんと来い、だ!」 まったくこの二人はどうなっているんだ。月曜日だぞ。まあ金曜日でもこんな飲み方はしないが……。 「で、剛田君、日本酒は決まったかい?」 まずい、部長に気を遣わせている。早く選ばなくては。 「じゃあ、この純米大吟醸で」 「りょーかーい!」 そう言うと、すかさず如月がメニューを取り上げた。 「あっ、店員さん。この純米大吟醸を徳利三つで、あと、お猪口も三つ」 おいおい、嘘だろ、さっき全制覇って言ったよな。ここは「徳利一つとお猪口三つ」だろう。全部を少しずつ飲むんだ、同じ酒を徳利三つも要らない! 「おー如月君! 今日は気合い入っているね! じゃあ、私もトコトン付き合っちゃおうかな!」 このバカ部長……。そう言えば、つまみは頼まないのだろうか。
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